老後2,000万円問題

65歳以上の夫と60歳以上の妻という主に年金収入を糧に生活する「高齢夫婦無職世帯」をモデルにして、その収支を現した図表(出典:総務省「家計調査」(2017年))が、平成31年2月22日に開催された厚生労働省第1回社会保障審議会企業年金・個人年金部会において提示された資料(企業年金・個人年金制度の現状等について 2. 企業年金・個人年金を取り巻く状況)の中に掲載され、それがさらに、金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループから発表された「高齢社会における資産形成・管理」という報告書の中でも取り上げられ、それが政界における政争の具にされているかのような状況である。

人生100年時代と言われている。高齢化の進展は極めて早く、第一線を退き稼得が無くなって、その後は主に年金だけが頼りという世帯がどんどん増えていくとともに、その期間がどんどん長くなっていくようである。しかし、その主たる年金収入だけでは支出を賄えず、平均的には5.5万円程度/月の赤字が続き、そのままの生活を続けるには、20年だとすると約1,300万円、30年だとすると約2,000万円必要だとされている。それ相応の退職金があってそれだけの資産を保有している世帯であれば、それほど深刻なことではなかろうが、すべての世帯がそうとは限らず、そのような世帯にしてみれば、「大変なことになる」って話しになり、『不安を煽ることになるだけじゃないか、どうしてこんな報告書を選挙(参議院選)前に世に出したのだ』と大騒ぎになり、担当閣僚は当該報告書を正式な報告書とは認めず、当該報告書の受け入れを拒否する事態にまで発展してしまった。

人事労務トピックス「平成31年度年金額等について」においても触れているが、物価の伸びに比べ賃金の伸びが少ない場合で、物価>賃金≧1の場合には、いずれの年齢層も「名目手取り賃金変動率」をもって、物価>1>賃金の場合には、いずれの年齢層も「1」をもって、1≧物価>賃金の場合には、いずれの年齢層も「物価変動率」をもって、年金額が算出されることになっている。しかも、「マクロ経済スライド調整率」という公的年金被保険者数の変動率(少子化)と平均余命の伸び率(高齢化)を掛け合わせた年金財政にとってはマイナス要因となるものを年金額に反映させる措置が講じられることになっており、当該措置は賃金(又は物価)が上昇したときだけに行われるとのことですので、仮に、上記 物価>賃金≧1 の場合であっても、年金額が名目手取り賃金変動率に応じてそのまま増えることにはならず、さらに、当該措置が講じられるまでには至らなかった年度分に関しては、翌年度以後に繰り越され、 賃金(又は物価)が大幅に上昇したときには、累積された未調整分も含めて調整されることになってしまい、年金額が大幅に増えるということは期待できない形になっているのである。このように、年金だけが頼りの生活はいつまで経っても楽にならないという現実をもたらしているのではないだろうか?

国民には、年金だけでは決して生活できないとの自覚を促し、その赤字を埋めるためにも、自助努力を求め、若い頃から資産形成に努めてほしいということなのかもしれません。

人生100年時代に相応しい年金制度と言っても、国の財政状況は極めて厳しく、また、現役世代に過度の負担を強いることは彼ら彼女らに将来へ希望を繋いでもらうことができなくなってしまい、そうなれば、我が国は活力のない衰退の一途を辿る将来を迎えることになるかもしれません。我々年寄世代も相応の負担を甘受し、年金制度が未来永劫持続できるよう、世代間での助け合いの下、所得代替率が50%になることを受け入れざるを得ないのかもしれません。

当該報告書の持つ意味は、そのような年金制度の危うさの中、国にはその危うさを少しでも軽減できるような施策を打ち出してほしい、そうしないといずれ国も国民もじり貧になるといったメッセージ性を発出したかったのではいだろうか?また、我々国民も国だけに頼るのではなく、特に若者に向け、できるところから少しずつの自助努力を促しているのではないだろうか?とはいうものの、現実には、非正規労働者として働かざるを得なくなってしまった方々も多く、そのような方々は日々生活を送るだけで精一杯で経済的な余裕などなく、投資をするなど論外という話しはよく聞かれるところである。そのような方々への支援が遅まきながらも始まっているようであるが、掛け声だけに終わらず、実のある支援に是非とも繋がっていくよう願うところである。

なお、その所得代替率50%以前の問題として、弊職の知る人の中には、無年金の方もいます。その無年金の方にとっては、今回の問題は 遠い世界の話しなのかもしれません。そのような方々に対するセイフティネットをもっと強固なものにしていく施策にも取り組んでいただきたいと願わざるを得ません。

2019年6月14日 | カテゴリー : その他 | 投稿者 : 石川 利人