民法改正について


令和2年1月1日更新

民法制定以降、約120年ぶりの抜本改正となる。民法には総則も含め5つの体系があるが、今回の改正はそのうち「債権」に関するものとなった。
施行は令和2年4月1日です。

<「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ>
「瑕疵担保責任」とは「隠れた瑕疵」に関する責任で、それを売買の場面で言えば、買主がその存在を知らず、そして知らないことに過失がない瑕疵ということになる。その場合には、売主としては100%責任を負うことになるというものである。一方、「契約不適合責任」とは、買主に過失があっても、契約に適合しないものを買主に引き渡してしまったら、売主は責任を負うというものである。売買の目的物が種類、品質、数量に関して契約内容に適合しない場合の売主の責任ということになる。
その場合の責任追求の方法としては、従来からの「契約解除」「損害賠償請求」に加えて、「履行の追完請求」「代金減額請求」も法律上可能(つまり、明文化されたということ)になったということである。

<「保証」について>
保証意思の確認には「公正証書(債務名義のひとつで、簡単に言えば、これがあれば強制執行が可能になる)」が必要になったということ、保証人に対する「情報提供の義務化」、賃貸借契約(に限らない)でも個人が保証人の場合には保証の限度額(極度額)の設定の義務化、といったことが挙げられる。
・なお、「公正証書」は事業用の融資における保証債務に限定されるということ。また、法人の代表取締役個人や、個人事業主の共同事業者やその事業に従事しているその配偶者等にはその適用がない(つまり、「公正証書」の作成は不要)ということである。
・「情報提供義務」は債務者(個人の保証人に対してのみの義務化で、その保有する財産・収支状況、当該債務以外の債務の存否等、提供する担保の内容といったものが対象)だけでなく、債権者(債務者の履行状況や残債の額等が対象)も負うことになる。
・保証人が個人である場合には、その保証の限度額(極度額)を設定しなければならない。つまり、契約書に当該額が明記されることになる。

(身元保証について)➣参考までに、「身元保証書」(25_2.pdf へのリンク)のサンプルを掲載します。
・身元保証とは、被用者の行為によって使用者が被ることになる損害(金銭上に限らず、使用者の業務上の信用を害するような場合も含むものとされています)を担保することを目的とした保証契約のことを言います。
・現行の「身元保証に関する法律」(25_3.pdf へのリンク)によれば、
(第1条及び第2条)
当該契約の存続期間(3年or5年、更新も可でその場合でも5年が限度とされています。なお、自動更新の条項を入れることは認められていないとされています)
(第3条)
使用者による身元保証人に対する通知義務
(第4条)
当該通知を身元保証人が受けた場合や身元保証人が下記①及び②の事実を知った場合に、身元保証人は将来に向かって当該契約を解除することができること
(第5条)
身元保証人が負う責任には様々な事情を斟酌することから制限がある

ことなどが規定されています。
・なお、今般の民法改正に伴い、令和2年4月1日以後に、人を採用する場合や身元保証契約を更新する場合などには、上記の保証の限度額(極度額)を定める必要があると考えます。身元保証書の内容については、同日以後の締結を予定している場合にはご留意下さい。

「身元保証に関する法律」における通知義務の内容
使用者は下記の場合においては遅滞なく身元保証人に通知しなければなりません。
①被用者に業務上不適任又は不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任を引き起こすおそれがあることを知ったとき。
②被用者の任務又は任地を変更し、このために身元保証人の責任を加重し又はその監督を困難ならしめるとき。
➣表現は古い形になっており、現代にそぐわない感がありますが、①においては、よくある事例としては業務上横領が挙げられると思われます。②においては、職務内容が変更になり、例えば、昇進し管理職になるケースが想定されます。管理職になることによって責任の程度が重くなり、同時に、身元保証人の負担の程度も重くなることから、このような場合には通知が必要になるというものです。
余談ですが、このように身元保証人の負担が重くなる場合に、保証の限度額(極度額)を増額するといった形の契約変更の可否については、身元保証人次第ということになろうと思われます。ただ、そのような場合、法律上身元保証人に契約解除権があることから現実的ではないかもしれません。

<「定型約款」について>
その代表例としては「保険約款」「運送約款」などがあるが、その定義と運用ルールが定められることになった。
・先ず、定義としては、「不特定多数を相手にする取引」「取引内容が画一的で、そこに合理性があること」となった。
・次に、ルールとしては、「この契約の取引条件は定型約款に従う」という合意をした者は個別の条項についても合意したものとみなすという「みなし合意」が明記されたということである。ただし、「みなし合意」が成立するには条件があり、事業者にとって一方的に有利になるものを書き込んだりといった「不当条項」は許されないということと、約款の内容を見せてほしいとの申出があった場合にはそれに従う義務があるという「約款表示義務」があるということになる。

<「短期消滅時効」について>
特定の職業別に定められた「3年以下の短期消滅時効」についてと、「3年以下の短期消滅時効」の対象となる債権以外の債権の消滅時効について、改正法では、
「3年以下の短期消滅時効」という規定が廃止され、下記の通りに統一されることになった。
・従来の規定では、債権は、10年間行使しない、つまり権利を行使することができるとき(客観的起算点)から10年間権利を行使しないときは消滅すると定められていたが、さらに、
債権者が権利を行使することができると知ったとき(主観的起算点)から5年間行使しないときは、消滅する。
という規定も追加されることになった。
・なお、施行(公布日(平成29年6月2日)から3年以内)日前に発生した債権の消滅時効の期間は従前の例によるとされており、その場合には依然、「短期消滅時効」が適用される場合もあるので注意が必要である。

(賃金等請求権の消滅時効について)
令和元年12月27日開催の厚生労働省第158回労働政策審議会労働条件分科会によって公表された「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(報告)(案)」(以下「報告(案)」(25_4.pdf へのリンク)という)によれば、
賃金請求権の時効消滅期間
賃金請求権の消滅時効期間は、今般の民法改正による短期消滅時効廃止後の契約上の債権の消滅時効期間とのバランスも踏まえ、5年間とする。
・ただし、当分の間、現行の労基法第109条に規定する記録の保存期間に合わせて3年間の消滅時効期間とすることで、企業の記録保存に係る負担を増加させることなく、未払賃金等に係る一定の労働者保護を図るべきであるとされています。
・時効の起算点は、客観的起算点を維持し、これを労基法上明記するとされています。
・その他詳細については、報告(案)をご参照下さい。
・なお、退職手当の請求権の消滅時効期間については、現行の消滅時効期間である5年間を維持すべきであるとされています。
年次有給休暇請求権の時効消滅期間
現行の消滅時効期間である2年間を維持すべきであるとされています。理由については、報告(案)をご参照下さい。
災害補償請求権の時効消滅期間
現行の消滅時効期間である2年間を維持すべきであるとされています。理由については、報告(案)をご参照下さい。
その他の請求権の時効消滅期間
帰郷旅費(労働契約において明示された労働条件が事実と相違する場合には、労働者は即時に当該労働契約を解除できるとされており、当該労働者が就業のために住居を変更していた場合でその解除後14日以内に帰郷する場合には、使用者はその必要な旅費を負担する必要があるもの)
退職時の証明(労働者が退職の場合において、下記5項目の証明書を請求した場合には、使用者は遅滞なくこれを交付する必要があるもの)
ア 使用期間
イ 業務の種類
ウ その事業における地位
エ 賃金
オ 退職の事由(解雇の場合にはその理由(労働者が解雇の事実のみの証明書を求めた場合にはその理由を記載してはならない)を含む)
金品の返還(労働者が退職又は死亡した場合において、権利者(退職の場合は本人、死亡の場合には遺族(相続人)になります)の請求があった場合には、7日以内に賃金を支払い、労働者の権利に属する金品を返還する必要があるもの)➣なお、この場合で、賃金については除く。

いずれについても、現行の消滅時効期間である2年間を維持すべきであるとされています。理由については、報告(案)をご参照下さい。
記録(労働者名簿、賃金台帳、雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他の労働関係に関する重要な書類)の保存期間
その保存期間については、賃金請求権の消滅時効期間に合わせて原則は5年間としつつ、当分の間は3年間とすべきであるとされています。理由については、報告(案)をご参照下さい。
付加金(裁判所は、下記4項目を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、支払わなければならない金額についての未払金に加えて、これと同一額の付加金の支払を命じることができます)の請求期間
ア 解雇予告手当
イ 休業手当
ウ 割増賃金
エ 年次有給休暇中の賃金

いずれについても、(その違反があった時からの)請求期間については、賃金請求権の消滅時効期間に合わせて原則は5年間としつつ、当分の間は3年間とすべきであるとされています。理由については、報告(案)をご参照下さい。

●令和2年1月10日に、厚生労働省ホームページにおいて公表された「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」はこちら(25_5.pdf へのリンク)からどうぞ。
施行日今般の民法改正に合わせ、令和2年4月1日
●経過措置➣施行期日以後に賃金の支払期日が到来した賃金請求権の消滅時効期間について、改正法(「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」をご参照下さい)を適用することとし、付加金の請求期間についても同様の取扱いとすべきであるとされています。

<「譲渡禁止特約付債権」から「譲渡制限特約付債権」へ>
改正後は、債務者の承諾がなくても、譲渡は可能となる。債務者に高い信用力がある場合には、その相手である債権者にとって、その保有する債権を流動化することは資金調達源の多様化にも繋がるものである。ただ、一方で、債務者にとっては、そのような債権の流動化によって、債権者たる相手側に対する不確実性が増し、払うべきでない相手に払ってしまうといった弊害も指摘されるところである。そこで、そのような弊害を回避するためにも、改正法では、
・債務者が、「譲渡制限特約付債権」が自分に無断で譲渡された場合には、その弁済は新債権者(譲受人)と当初の債権者(譲渡人)のいずれに対しても行っていいということになる。

<法定利率(当事者間で約定がない場合に適用される利率) 5%から3%へ>
さらに、当該利率は市場金利に応じて3年ごとに見直しが図られることになる。
※関連事項➣人事労務トピックス「第三者行為による傷病届等について」ページにある「逸失利益」をご参照下さい。


以上が、民法改正の主要な部分となります。施行までにはまだ時間的な猶予はありますが、施行後は一部業界には多大な影響が及ぶことも予想されます。今後、法務省を始め、様々なところから情報発信がなされるものと思われ、それらの情報を得るべくアンテナを張り巡らし、理解を深めていただければと思います。弊職もその一端を担えるよう努めます。

※参考までに、法務省HPにおいて公開されている「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」(25_1.pdf へのリンク)というPDF資料を掲載しておきます。
※また、法務省HPにおいて、「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」とする特設ページが開設されていますので、当該ページもご参照下さい。

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