第三者行為による傷病届等について


令和2年7月10日更新

交通事故で怪我を負わされた場合、けんかで相手方から危害を加えられた場合、他人が飼っている犬にかまれた場合など、他⼈の⾏為が原因で怪我などをした場合を「第三者⾏為災害」と⾔い、加害者(損害保険会社)側に対しては治療費などの損害賠償請求ができるケースです。一昔前には、このようなケースでは「健康保険」を使えないと医療機関の窓口で言われたことがあるなんて経験をした人もいらっしゃるのではないでしょうか?しかし、それは本当に昔ばなしです。

さて、では、その際の手続はどのようになっているのでしょうか?「交通事故」の場合を例に取って考えてみたいと思います。不幸にも交通事故に遭遇し、しかも負傷してしまった場合は、気も動転し、頭の中も真っ白の状態であろうと思いますが、先ずは、現場での安全確保措置、警察や双方が契約しているであろう損害保険会社への連絡、救急車の手配(をするまでもない場合もあると思います)など一連の行動が必要になるのではないでしょうか?そして、被害者は現場近くの医療機関(救急の場合)、あるいは自宅近くの最寄りの医療機関で実際に治療などを受けるということになろうかと思います。
なお、そのような現場での加害者側とのやりとり、そして、その後の加害者側との折衝において、被害者が留意すべき点にはどのようなことがあるのかといったアドバイスをするサイトがネットでは溢れているかと思いますが、そのような法的な側面については弊職としてできかねますので、その部分についてはその専門家にお任せすることとし、本ページにおいては、先ずは、「自賠責保険(共済)」の特色について、さらに、「健康保険法上の第三者行為災害」及び「労災保険法上の第三者行為災害」の留意点等について解説をしていきたいと思います。

 なお、被害者が被った損害額のうち大きなウェートを占める「逸失利益」について、今般の民法(債権法)改正(公布➣平成29年6月2日・施行➣令和2年4月1日)に伴い、「法定利率」の見直し(民事年5%・商事年6%➣いずれについても年3%に統一)(9_1_10.pdf へのリンク)がなされたことにより、その「逸失利益」の算定に当たって考慮される「中間利息控除」というものに大きな影響が及ぶことになりました。この「中間利息控除」というのは、例えば、被害者が月給制のサラリーマンで、重い障害を負ったり死亡した場合には、仮に現年収のまま定年まで働けるとして、将来得ることができるであろう給料を「逸失利益」という形で一括して取得できることになりますが、その場合には、毎月月給が支給されて生活する場合に比較して、有利な運用ができると仮定されるため、その分の運用益にあたる利息については控除されるべきであるとする考え方(定年まで運用したとして現在価値に割り戻す)からくるものです。その運用益にあたる利息を計算する際の利率(法定利率)が5%から3%になるということは、控除される中間利息の額はその分だけ少なくなることを意味し、そのことは、被害者が取得するであろう「逸失利益」が改正前に比し逆に増えることを意味するわけです。「逸失利益」を算定するものとして「ライプニッツ計数表」というものが使われており、当該表も今般の民法改正を受けて改定される予定です。

 この「一括」という部分については、令和2年7月9日に注目すべき判決がありましたので、ご紹介したいと思います。
(裁判例)➣判決文はこちら(9_1_11.pdf へのリンク)から
交通事故に遭わなければ将来得られたはずの「逸失利益」の賠償⽅法が争われた訴訟の上告
審判決が最⾼裁第1⼩法廷より言い渡されたものです。従来は、「⼀括払い」が主流だった賠償方法で、⽉1回などの定期的な⽀払いも認められるとの判断を⽰したもので、定期払い期間中に被害者が亡くなった場合でも賠償義務は続くとの初判断も示しました。「定期払い」の場合には、上記のように「中間利息控除」という考え方がなく、しかも、「一括払い」に比し格段に賠償額が増えるという被害者側にとっては大きなメリットがあります。しかも、障害の進⾏具合や時々の賃⾦⽔準の変動などに応じて、民事訴訟法第117条(定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める旨の訴えを提起することが可能であると規定したもの)により、柔軟に条件を変更できるとされています。ただし、それらの変動要因も被害者側に不利に働く場合(例えば、被害者の障害の程度が軽くなったことをもって、加害者側が定期金の額の減額を要求してくる場合など)もあり得るとともに、加害者の失踪や支払能力の低下(損害保険会社の破綻も含む)などで賠償が滞るリスクがあることも覚悟しなければなりません。
いずれにしても、最高裁の判断が実務に与える影響は大きく、今後は、「定期払い」がむしろ主流になる可能性もあろうと考えるところです。

【自賠責保険(共済)制度について】
自賠責保険(共済)については解説するまでもありませんが、ただ、余り知られていないと思われる事項のみ下記します。
●人身事故のみを対象としていること。
●複数の被害者が存在しても、各被害者こどに支払限度額*1が定められていること。
●加害者から損害賠償を受けられない場合には、被害者が直接、加害者が加入している損害保険会社(共済組合)に対して支払限度額の範囲内で損害賠償(保険(共済)金)を請求*2できること。➣「一時払制度」*3について
●急な出費(治療費等)に備えるために、被害者に対する「仮渡金制度」*4があること。
●交通事故の発生時において、被害者の重大な過失(7割以上)があった場合にのみ減額措置*5がなされること。
●不幸にも、自賠責保険(共済)の対象外である「ひき逃げ事故」や「無保険(共済)車による事故(これは稀)」に遭われた被害者(請求権者)の救済を目的として、加害者による損害賠償や健康保険・労災保険といった法令給付によってもなお損害が残る場合に備えて、政府(国交省)が支払限度額の範囲内で当該損害を填補する「政府保証事業」というものがあります。被害者への填補額については、政府(国交省)が当該填補額を限度として、加害者(損害賠償責任者)に求償することになります。詳細は自賠責保険ポータルサイトにある「政府保証事業」をご参照下さい。

 自賠責保険(共済)の請求に必要な書類については、自賠責保険ポータルサイトにある「支払までの流れと請求方法」をご参照下さい。

*1 支払限度額及び保障内容➣詳細な支払基準についてはこちら(9_1_6.pdf へのリンク)から
・傷害による損害➣120万円/1人 治療関係費(治療費・看護料・諸雑費・通院交通費・義肢等の費用・診断書等の費用)・文書料・休業損害(原則5,700円/1日)・慰謝料(原則4,200円/1日)
・後遺障害による損害➣逸失利益・慰謝料
①神経系統の機能や精神・胸腹部への著しい障害で要介護の場合 常時介護(第1級)4,000万円/1人 随時介護(第2級)3,000万円/1人
②①以外の場合 第1級3,000万円/1人から第14級75万円/1人まで
・死亡による損害➣3,000万円/1人 葬祭費(原則60万円)・逸失利益・慰謝料(被害者本人350万円・遺族(被害者の配偶者・子・父母が請求権者)については、請求者1人550万円・同2人650万円・同3人以上750万円で、加算あり)
*2 被害者請求に係る時効
・傷害➣事故が発生してから3年以内
・後遺障害➣症状が固定してから3年以内
・死亡➣死亡してから3年以内
*3 「一時払制度」
多くの場合は、自賠責保険(共済)以外に自動車(任意)保険(共済)にも加入しており、交通事故という特殊性もあり、被害者が加害者に対して損害賠償を請求したり、自賠責保険(共済)の被害者請求をしたりするのは現実的ではなく、自動車(任意)保険(共済)の損害保険会社(共済組合)はその支払責任を負う限度において、加害者に代わって自賠責保険(共済)金を含めて支払う制度があります。
*4 「仮渡金制度」➣加害者が加入している損害保険会社(共済組合)に対し請求するもの
・傷害➣程度に応じて、5万円・20万円・40万円
・死亡➣290万円
*5 重過失減額
・傷害➣
過失割合7割以上 2割減額
・後遺傷害・死亡➣
過失割合7割以上8割未満 2割減額 
過失割合8割以上9割未満 3割減額
過失割合9割以上10割未満 5割減額

【健康保険制度について】
このような「第三者⾏為災害」を被った場合、加⼊している健康保険制度(協会けんぽや国民健康保険など)に「第三者⾏為による傷病届」等を提出することにより、健康保険を使って治療を受けることができます。協会けんぽのホームページでは、治療前に当該届等の提出を求めているようですが、現実的にはその前に当該届等を提出している時間的にも精神的にも余裕がないのが一般的であろと思われますので、協会けんぽの場合であれば、先ずは電話連絡等の方法をもって対処することで足りているようです。下方の画像は協会けんぽのホームページ内の「事故にあったとき(第三者行為による傷病届等について)」において公開されているもので、第三者行為による事務処理の流れを示したものです。ご覧の通り、複雑な流れになっていますので、面倒くさいとの想いを抱かれると思いますが、加害者といった第三者が介在するという特殊な形態である以上、致し方ないものと考えます。



(提出書類について)(9_1_2.pdf へのリンク)
①「交通事故、自損事故、第三者(他人)等⾏為による傷病(事故)届」➣本来なら、このようなケースの場合は、加害者側が治療費全額を⽀払うべきですが、健康保険制度が一旦⽴て替えるという仕組みであるため、その立て替えた部分を後⽇加害者側に請求(求償)するために必要となるのがこの届です。
 上記下線部分に関連して、過去に、注目すべき裁判例(最高裁平成20年2月19日保険金請求事件平成18(受)1994)(9_1_4.pdf へのリンク)があります。加害者が自動車(任意)保険(共済)に加入していない場合で、健康保険制度だけでは被害者が被った損害額(裁判例では3,379,541円)を補填できない場合の不足額(裁判例では1,315,341円)については、被害者は自賠責保険(共済)に請求(「直接請求権」の行使)するしかありません。一方で、健康保険制度が立て替えた医療保険給付額(裁判例では2,064,200円)はやはり自賠責保険(共済)に請求(「求償権」の行使)するしかありません。ただし、自賠責保険(共済)においては、その給付額に上限(例えば、傷害事故なら、治療費・休業補償・慰謝料すべて合わせて120万円)があり、従って、被害者側の不足額(1,315,341円)と健康保険制度側の医療保険給付額(2,064,200円)との合計額(つまり、損額額となる3,379,541円)が当該上限額(裁判例では120万円)を超える場合には、どちらを優先するのかという競合の問題が発生することになります。この競合の問題については、最高裁は、被害者の直接請求権が優先するという判決を下しました。
一方、当該最高裁判決が出た以降も、労災保険制度については、従来通りの「按分法(つまり、自賠責保険(共済)の給付上限額を被害者側の不足額と労災保険側の求償額に按分するもの)」をもって調整されてきたところ、労災保険制度に係る裁判例(最高裁平成30年9月27日保険金請求事件平成29(受)659)(9_1_5.pdf へのリンク)をもって、上記した健康保険制度と同様に、被害者の直接請求権が優先するという判決を下しました。
なお、当該競合の問題については、上記裁判例によって解決が図られましたが、いずれか一方が自賠責保険(共済)への請求を行わないまま、他方の自賠責保険(共済)への請求に対する⽀払いが完了してしまうと、そもそも請求の競合による優劣問題は⽣じないことになり、俗に言えば、⾃賠責保険(共済)への請求は「早い者勝ち」だということです。ご留意下さい。
②「負傷原因報告書」➣業務上や通勤途上での負傷でないかどうかの確認のために必要な書類です。業務上や通勤途上であれば、「労災保険」の対象となります。
③「事故発⽣状況報告書」➣交通事故の場合に必要となるもので、事故の状況や過失(相殺)割合を判断する上での重要な書類となります。
④「同意書」➣協会けんぽが加害者側へ損害賠償請求をする際、医療費の内訳(診療報酬明細書の写し)を添付しますが、その中には被害者に係る個⼈情報が含まれていることから、予め、その旨被害者の同意を求めるための書類です。その中の一部につき、その意味するところについては後述(1)※します。
⑤「損害賠償⾦納付確約書・念書」➣加害者に記⼊していただく書類です。
「交通事故証明書(人身事故)」➣この書類は必ず添付する必要があり、「自動車安全運転センター法」の定めるところにより、「自動車安全運転センター」の都道府県方面事務所長が、交通事故の当事者が適正な補償を受けられるよう、その求めに応じて、警察から提供された証明資料に基づき、交通事故の事実を確認したことを証明する書面として交付(交付申請には3種類の方法があります。後述(2)※します)するものです。
(自動車安全運転センターホームページ内より引用)
⑦⑥が「交通事故証明書(物件事故)」となっている場合には、「人身事故証明書入手不能理由書」を提出する必要があります。人身事故であるにもかかわらず、何らかの理由により、「物件事故」扱いとされたことから、結果として人身事故である旨の事実を確認するために必要となる書類です。

※後述(1)➣同意書(9_1_3.pdf へのリンク)の中で青色のマーカーによって強調した部分
70歳代前半の被保険者等に係る一部負担金等の軽減特例措置というのは、平成20年度から、70歳代前半(70歳から74歳まで)の療養に係る一部負担金等については、1割負担から2割負担に見直す措置が講じられたところですが、高齢者の置かれている状況に配慮する必要から、臨時の特例措置として、その一部負担金等の一部に相当する額(つまり、1割部分)については、国が支給(つまり、保険者が支給するものではないということ)するというもの。従って、その部分はやはり国による立替となるものであり、最終的には、加害者側に対して損害賠償請求(求償)することになるわけです。
例えば、平成20年4月1日時点で70歳になる昭和13年4月2日生まれの者は75歳になるまで療養に係る一部負担金等が1割になるものです。ただ、平成26年4月以後は、平成26年3月31日以前に70歳に達している者(つまり、昭和19年4月1日以前生まれの者)及び現役並み所得者を除き本来の2割負担となりました。従って、昭和19年4月2日以後生まれの者は順次2割負担になります。ただし、令和1年8月1日時点では、昭和19年4月2日以後生まれの者はすべて後期高齢者医療制度に移行しています。
※後述(2)➣「交通事故証明書」(見本)(9_1_7.pdf へのリンク)交付申請の方法(詳細は自動車安全運転センターホームページ参照)
①ゆうちょ銀行・郵便局窓口での「交通事故証明書申込用紙(つまり、「払込取扱票」)を用いた方法によるもの。
②センター事務所窓口での「交通事故証明書交付申請書」を用いた方法によるもの。
③交通事故証明書のインターネット申請(自動車安全運転センターホームページ内に専用サイトがあります)。

【労災保険制度】
業務上又は通勤途上に交通事故に遭ったり、得意先に向かう途中のビル建設現場から落下してきた物に当たるなどして負傷したり、最悪な場合、死亡に至ることもあります。労災保険給付の原因である災害が第三者の行為によって引き起こされた場合には、当該第三者は被災者やその遺族に対して損害賠償義務を負うことになります。
このような場合、被災者等は第三者に対して損害賠償請求権を取得すると同時に、労災保険に対しても保険給付請求権を取得することになります。ただ、同一の事由により両者から損害の填補を受けることは不合理なことであり、そのような場合については、労災保険法において、第三者行為災害に係る労災保険給付と民事の損害賠償との間で支給調整を行うことになっています。

(求償)
先に政府が労災保険給付をしたときは、政府は、被災者等が第三者に対して有する損害賠償請 求権を労災保険給付の価額の限度で取得します。これを「求償」と言います。

(控除)
先に被災者等が同一の事由(例えば、「療養(補償)給付」⇔治療費・「休業(補償)給付」⇔休業による喪失利益など)により第三者から損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で労災保険給付をしないことができます。これを「控除」言います。
なお、労災保険では被災者に対して、保険給付以外に「特別支給金」という社会復帰促進等事業として支給されるものがあり、例えば、「休業(補償)給付」であれば、給付基礎日額の60/100相当額が支給され、さらに、「休業特別支給金」として給付基礎日額の20/100相当額が支給されますが、当該部分は支給調整の対象とされていません。

このように、それぞれについて支給調整が図られることになります。

(提出書類について)
①「第三者行為災害届」
「交通事故証明書」又は「交通事故発生届(交通事故について、警察署へ届け出ていないなどの理由により交通事故証明書の提出ができない場合に提出するもの)」
③「念書(兼同意書)」➣第三者行為災害における求償及び控除に関すること、 自賠責保険(共済)に対する請求権を有する場合で自賠責保険(共済)による保険(共済)金支払いを先に受けることを希望した場合の取扱いに関すること、個人情報の取り扱いに関する同意について、記載されています。
④その他の添付書類(必要な場合)➣「示談書の謄本」(示談を行う場合の留意点については、厚生労働省作成の『労災保険 第三者行為災害のしおり』(9_1_8.pdf へのリンク)にある『示談を行う場合』(9_1_9.pdf へのリンク)をご参照下さい)、「自賠責保険(共済)の損害賠償金等支払証明書又は保険(共済)金支払通知書」、被災者が死亡した場合の「死体検案書又は死亡診断書」「戸籍謄本」
⑤第三者による提出が求められる書類➣「第三者行為災害報告書」

【自賠責保険(共済)と労災保険給付との先後】
自動車事故の場合には、自賠責保険(共済)による保険(共済)金あるいは労災保険給付、いずれを先に受けるかを被災者等が選択できることになっています。

(その際の留意事項)
自賠責保険(共済)先行の場合には、自賠責保険(共済)から支払われた保険(共済)金のうち、同一の事由によるものについては労災保険給付から「控除」されることになります。従って、その場合には、労災保険給付と同一の事由による損害項目については、自賠責保険(共済)からの支払が完了するまでは、労災保険給付は行われません。
➣従って、同一の事由で、労災保険給付>自賠責保険(共済)からの保険(共済)金 の場合には、さらに労災保険給付すべき金額として不足額を支給することになります。

 自賠責保険(共済)先行の場合に、引き続いて、自動車(任意)保険(共済)による保険(共済)金あるいは労災保険給付、いずれを先に受けるかを被災者等が選択できることになっています。
労災保険給付先行の場合には、同一の事由については、自賠責保険(共済)からは支払われません。というのは、労災保険が自賠責保険(共済)に対して求償する必要があるからです。

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