年金額算出の事例研究


Iさんの特別支給の老齢厚生年金の年金額を算出する過程、合わせて、在職老齢年金による支給停止額及び当該支給停止額に加えての雇用保険の高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金)に伴う支給停止額等について、事例を使用して解説したいと思います。

【前提条件】
●Iさん 昭和31(1956)年3月31日生まれ➣62歳から報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金が支給されることになります。下記図表をご参照下さい。

➣20歳に達した日 昭和51(1976)年3月30日
➣60歳に達した日 平成28(2016)年3月30日
➣62歳に達した日 平成30(2018)年3月30日
➣65歳に達する日 令和3(2021)年3月30日
●昭和54(1979)年3月 大学卒業
➣なお、20歳(昭和51(1976)年3月)に達した月から大学を卒業(昭和54(1979)年3月)した月までの間は国民年金に任意加入(平成3(1991)年3月までは任意加入の取扱いがなされていました)していなかったことから、その期間は「合算対象期間」となり、老齢基礎年金の「受給資格期間」には算入されるものの、老齢基礎年金の年金額には反映されないことになります。
●昭和54(1979)年4月 民間企業に就職、以後定年退職まで継続勤務
●平成28(2016)年3月31日 定年退職
➣平成28(2016)年4月1日に厚生年金保険被保険者資格喪失(同日得喪)
●平成28(2016)年4月1日 再雇用(65歳まで)
➣平成28(2016)年4月1日に厚生年金保険被保険者資格取得(同日得喪)
●定年退職直前の標準報酬月額 560千円(厚生年金保険29等級/健康保険32等級))*1
●再雇用後の標準報酬月額   340千円(厚生年金保険21等級/健康保険24等級)*1
*1 このように、退職前後で標準報酬月額の等級に大幅な変動が生じる場合があります。このような場合の取扱いには特例が設けられており、詳細については、人事労務トピックスにある「被保険者報酬月額算定基礎届について」の【継続雇用された者の被保険者資格の得喪について】をご参照下さい。
●昭和54(1979)年4月から平成15(2003)年3月まで(288箇月)の平均年収 600万円(賞与は除く)➣同期間の総報酬額 144,000,000円(=600/12×288)
●平成15(2003)年4月から平成28(2016)年3月まで(156箇月)の平均年収 840万円(賞与を含む)➣同期間の総報酬額 109,200,000円(=840/12×156)
●平成28(2016)年4月から平成30(2018)年2月(62歳到達月の前月)まで(23箇月)の総報酬額 9,180,000円(賞与は毎年7月と12月に各340,000円)
●本来であれば、生年月日及び被保険者期間に応じた「再評価率*2」を乗じて年金額を算出するという複雑な計算を要しますが、ここではそれを考慮せず算出することにします。
*2 なお、参考までに、「再評価率」に関しては、①平成12年改正で報酬比例部分の乗率を5%引き下げる措置(5%適正化)が実施されたものの、受給者の年金額が低下することを回避するために、5%適正化前の従前の給付水準を保障する措置である「従前額保障」(平成6年の「再評価率」(5_3_1.pdf へのリンク)が適用されるもの)と②平成16年改正による「本来水準」(同年改正の新「再評価率」(毎年度改定されるもの)(5_3_2.pdf へのリンク)が適用されるもの)という2種類の「再評価率」が存在します。

【報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金の算出過程】
●昭和54(1979)年4月から平成15(2003)年3月までの被保険者期間(当該期間においては、標準賞与額が含まれていません)
平均標準報酬月額500,000円(=144,000,000/288)×生年月日に応じた給付乗率(5_3_3.pdf へのリンク)7.125/1000×昭和54(1979)年4月から平成15(2003)年3月までの被保険者期間の月数288=1,026,000円
●平成15(2003)年4月から平成30(2018)年2月(62歳到達月の前月*3)までの被保険者期間(当該期間においては、標準賞与額が含まれています➣「総報酬制」)
平均標準報酬661,341(≒(109,200,000+9,180,000)/179)×生年月日に応じた給付乗率5.481/1000×平成15(2003)年4月から平成30(2018)年2月(62歳到達月の前月)までの被保険者期間の月数179≒648,841
*3 Iさんに支給される報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は62歳からとなっており、つまり、62歳に達した時点でその受給権が発生します。その際の年金額の計算の基礎となる期間については、受給権者がその権利を取得した月以後(つまり、平成30年3月以後)における被保険者期間はその計算の基礎としないためです。
●Iさんの62歳からの報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金の額➣1,026,000+648,841=1,674,841円 となります。

【65歳から支給される老齢基礎年金の額(参考)】
ちなみに、平成30年度の年金額で算出➣779,300円(令和1(2)年度の満額の年金額➣780,100(781,700)円)×(昭和54(1979)年4月(23歳)から平成28(2016)年2月(60歳到達月の前月)までの443ヶ月(36年11箇月))/480≒719,229円 となります。

【65歳から支給される経過的加算の額(参考)】
●定額部分の額➣定額単価1,625円(平成30年度の単価(令和1(2)年度は1,626(1,630))(5_3_4.pdf へのリンク)×生年月日に応じた率1.000×昭和54(1979)年4月から令和3(2021)年3月までの被保険者期間の月数480(実際の月数は504箇月となりますが、当該月数には上限があり、昭和21年4月2日以後生まれの者は480箇月となります)=780,000円
●経過的加算の額➣780,000円-779,300円×昭和36年4月1日以後の20歳以上60歳未満の厚生年金保険被保険者期間の月数443箇月/480箇月=60,771円 となります。

【雇用保険の高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金*4)について】
雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者に対して、賃金額が60歳到達時の75%未満となった者を対象に、最大で賃金額の15%(低下率が61%未満*5の場合)に相当する額を支給するものです。
*4 60歳到達以降も失業等給付のひとつである求職者給付のうちの「基本手当」の支給を受けずに継続雇用される者を対象とする給付で、基本的には、60歳到達月から65歳到達月まで支給されます。
*5 市販されている参考書等によると、そのほとんどが当該比率は61%未満と表記されていますが、ハローワークのホームページにおいて公開されているリーフレット「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について」においては61%以下と表記されています。
●Iさんの場合の60歳到達時の賃金額➣560,000円(便宜的に、標準報酬月額と同額にしています)
●Iさんの場合の60歳以降の賃金額➣340,000円(便宜的に、標準報酬月額と同額にしています)
●低下率➣約60.7%(61%未満*5)
●高年齢雇用継続基本給付金の支給額➣340,000円×15%=51,000円
ただし、60歳以降の賃金額340,000円+高年齢雇用継続基本給付金の支給額51,000円=391,000円となるので、合計額 391,000円が高年齢雇用継続基本給付金の平成30年8月1日からの支給限度額である<359,899(➣改定額360,169➣再改定額360,163)円>を超えているので、高年齢雇用継続基本給付金の支給額としては、<359,899(➣改定額360,169➣再改定額360,163)円>-340,000円=<19,899(➣改定額20,169➣再改定額20,163)円> になります。
なお、高年齢雇用継続基本給付金の令和1年8月1日からの支給限度額は<363,359(➣改定額363,344)円>になっています。
※ の意味するところは、今般の「毎月勤労統計に係る不適切事案に伴う当該額の変遷を示しています。詳細については、人事労務トピックス一覧表にある「失業等給付の拡充について」において解説する箇所があります。ご参照下さい。
●その他詳細については、人事労務トピックスにある「高年齢雇用継続給付について」をご参照下さい。

【在職老齢年金による支給停止額について】
Iさんの場合には、62歳到達月(平成30(2018)年3月)(実際には、翌月から支給されます)から報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金が支給されます。
●62歳から支給される当該年金額➣上記の通り、1,674,841円 となります。
●基本月額➣1,674,841円/12≒139,570円
●総報酬月額相当額➣平成30年4月(実際の支給月)の「標準報酬月額」と当該月以前1年間の「標準賞与額」の総額/12の合計額となります。
340,000円+(340,000円×2)/12≒396,667円
●基本月額139,570円+総報酬月額相当額396,667円=536,237円
●536,237円>280,000円(平成30年度の「支給停止調整開始額」)➣60歳台前半の在職老齢年金の対象となります。
●基本月額≦280,000円かつ総報酬月額相当額≦460,000円(平成30年度の「支給停止調整変更額」)の場合(下記表の②に該当)に当てはまるので、下記算式により、在職老齢年金による「支給停止額」が求められます。
(総報酬月額相当額+基本月額-280,000円)×1/2=128,119円
●基本月額から「支給停止額」を控除した後の額(つまり、実際に支給される年金額)
➣基本月額139,570円-128,119円=11,451円 となります。

基本月額と総報酬月額相当額 計算方法
(在職老齢年金制度による調整後の年金支給月額=)
基本月額と総報酬月額相当額の合計額
≦28万円の場合➣①
全額支給
総報酬月額相当額≦46万円で
基本月額≦28万円の場合➣②
基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)×1/2
総報酬月額相当額≦46万円以下で
基本月額>28万円の場合➣③
基本月額-総報酬月額相当額×1/2
総報酬月額相当額>46万円で
基本月額≦28万円の場合➣④
基本月額-{(46万円+基本月額-28万円)×1/2+
(総報酬月額相当額-46万円)}
総報酬月額相当額>46万円で
基本月額>28万円の場合➣⑤
基本月額-{46万円×1/2+
(総報酬月額相当額-46万円)}
※なお、令和1(2)年度の60歳台前半の「支給停止調整変更額」及び60歳台後半と70歳以降の「支給停止調整額」はともに、470,000円に変更されています。

【上記支給停止額に加えての雇用保険の高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金)に伴う支給停止額】
高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金)は60歳到達月から65到達月まで支給されますが、Iさんの場合もやはり60歳到達月から65歳到達月まで、上記の19,899円が支給されます。このように高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金)が支給される場合には、62歳到達月からの報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金の支給(実際には、当該月の翌月から支給されます)に伴う在職老齢年金の適用による「支給停止額」に加えて、標準報酬月額の6%を上限として、報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金がさらに支給停止されることになります。
●Iさんの場合の60歳到達時の賃金額➣560,000円
●Iさんの場合の60歳以降の賃金額➣340,000円
●低下率➣約60.7%(61%未満*5)
●「支給停止額」=平成30年4月(実際の支給月)の「標準報酬月額」×6%=20,400円
➣ただし、当該時点での実際の年金額が上記の通り、11,451円となっていますので、当該額が「支給停止額」となり、結果的には、支給される年金額はゼロとなります。

退職時改定について】➣詳細は人事労務トピックスにある「在職老齢年金制度」の『「被用者年金一元化法」が施行されてから・・・』をご参照下さい。
また、退職時改定については、厚生労働省年金局より第12回社会保障審議会年金部会に対して、その見直し案が提示(令和1年10月18日)されています。人事労務トピックスにある「在職老齢年金受給や繰下げ受給に係る見直し案について」の<在職定時改定について>をご参照下さい。

Iさんは継続雇用後の65歳で退職する予定です。報酬比例部分のみの特別支給の老齢厚生年金はその受給権取得月である62歳到達月(平成28(2016)年3月)の前月までの被保険者期間をその計算の基礎とし、62歳到達月(実際には、その翌月)から支給されています。そして、当該年金額は65歳で退職するまでは改定されることはありません62歳から65歳までに負担した保険料が年金額に反映されるのは、退職することで被保険者資格を喪失して被保険者になることなく、当該被保険者資格喪失日(本件のように月末退職した場合は退職日(令和3(2021)年3月31日)が喪失日になります。ただ、この喪失日はあくまでも便宜的なもので、実際の喪失日は令和3(2021)年4月1日になります)から起算して1箇月を経過した日(令和3(2021)年4月30日になります)の属する月から改定されることになります。ただし、保険料負担は実際の被保険者資格喪失日の属する月の前月(つまり、令和3(2021)年3月)までとなり、年金額の計算をする場合にも、被保険者資格喪失日の属する月の前月(つまり、令和3(2021)年3月)までの被保険者期間をその計算の基礎とします。
●「退職時改定」により増える年⾦額
62歳到達月(平成30(2018)年3月)から厚生年金保険被保険者資格喪失日の属する月の前月(令和3(2021)年3月)までの被保険者期間(37箇月)を基礎として計算されます。
➣同期間の総報酬額 14,620,000円(賞与は毎年7月と12月に各340,000円)
平均標準報酬額395,135(≒14,620,000/37)×生年月日に応じた給付乗率5.481/1000×平成30(2018)年3月から令和3(2021)年3月までの被保険者期間の月数37≒80,132円 となります。

コメントを残す