民法(相続関係)及び家事事件手続法の一部を改正する法律について


被相続人の遺産分割で、相続人のひとりである配偶者が現在住んでいるいる住居に住み続けることができる権利として「居住権」を認め、当該住居、引いては生活費の確保をし易くするなどを内容とする「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」が第196回通常国会に提出され、平成30年7月6日にそれぞれ可決成立しています。そして、既に、平成31年1月13日に施行されたものを手始めに、今後順次、それらが施行されていきますので、それらの概要について確認したいと思います。

※民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律新旧対照条文(25_1_1.pdf へのリンク)
※法務省ホームページにおいて、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」とする特設ページが公開されています。ご参照下さい。

1.「配偶者居住権」の新設(新設_民法第1028条から第1036条)(令和2年4月1日施行)
「配偶者居住権」は現在住んでいる住居に、配偶者がそのまま住み続けられる権利です。いわゆる「所有権」ではありません。配偶者が当該住居の「所有権」を相続すれば、当然そこに住み続けることはできますが、その場合、相続評価としては、「居住権」付きの場合に比し高くなることが予想され、そうなると、他に預貯金等の金融財産があった場合、その取り分が少なくなってしまうおそれがあります。そのような弊害を回避するための新設です。

<事例>
夫が死亡し、自宅(評価額1,500万円)と預貯金2,500万円を配偶者(1/2)と子(1/2)が法定相続分に従って相続する場合
(現行)
妻➣自宅の所有権を得て住み続けるとしたら、当該自宅1,500万円と預貯金500万円
子➣預貯金2,000万円
(改正法)➣居住権の評価額は、居住権を取得する者の平均余命等を勘案して算定されますが、一応、500万円とします
妻➣「配偶者居住権」として500万円、預貯金1,500万円
子➣自宅の「負担付所有権」として1,000万円、預貯金1,000万円

「配偶者短期居住権」(新設_民法第1037条から第1041条)というものも新設されました(令和2年4月1日施行)
これは、配偶者が相続開始時に被相続人の建物(居住建物)に無償で住んでいた場合に、下記の期間、居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得するというもの。
①最終的にその居住建物を誰が相続するかが確定するまでの間(ただし、最低保障期間として6箇月間が確保されている)
②居住建物が第三者に遺贈された場合や配偶者が相続放棄をした場合で居住建物の所有者から(当該配偶者が取得した配偶者短期居住権を)消滅させるための請求を受けてから6箇月間

2.婚姻期間20年以上の夫婦は住居の贈与が特別受益の対象外になります(新設民法第903条_第4項)(令和元年7月1日施行)
配偶者間で住居を⽣前贈与したり、遺贈したりしてもこれが「特別受益*」と評価されず(つまり、持ち戻ししなくてもいいことになる(持ち戻し免除))に遺産分割の計算対象外になるというものです。
*生前贈与や遺贈を受けた者とそうでない者との間の公平を図るために、それを「特別受益」分として、相続財産に加えた上で各相続人の相続分を算定すること。

3.遺産分割前に⽣活費等を引き出せることになります(令和元年7月1日施行)
従来は、被相続⼈の遺産は、亡くなった時点で相続⼈全員によって共有している状態となるため、遺産分割協議成⽴前に預貯金を勝⼿に引き出すことはできませんでしたが、⽣活費や葬儀代等を被相続⼈の預貯⾦から引き出すことが可能となります。下記2つの制度が新設されています。

(1) (新設_民法第909条の2)
預貯金債権の一定割合(相続開始時の預貯金債権の額×1/3×当該払戻しを行う共同相続人の法定相続分*)については,家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口において払戻を受けることができます。
* 例えば、相続人が配偶者と子が2人の場合で、子の1人(法定相続分=1/4)が単独(つまり、他の共同相続人の同意は不要)で当該制度を利用する場合→預貯金債権の額が450万円だとすると、450万円×1/3×1/4=375,000円となります。なお、同一の金融機関に対する権利行使には上限額(150万円)が設定されています。

(必要書類)
●金融機関所定の払い戻し請求書
●相続人全員の印鑑証明書
●被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までのものすべて)
①先ずは、被相続人の死亡記載の戸籍(除籍)謄本を取得します。すると、当該除籍謄本にある「戸籍事項」欄には「平成6年法務省令第51号附則第2条第1項による改製」と記載されていると思われます。それは、当該法令を根拠に当該除籍謄本が改製されたことを意味し、その改製された日も合わせて記載されています。
②被相続人が結婚を機に新しく世帯を設けた場所が当該除籍謄本にある本籍地で、その後、同地で死亡したとすると、その改製の基になった「改製原戸籍」を取得すれば、被相続人が出生したことが記載されているかもしれません。
③記載されていなければ、何らかの事情で、当該「改製原戸籍」ではその出生に辿り着くことができなかったことになります。その場合には、当該「改製原戸籍」をもって次に遡るべき戸籍を見つけることになるわけです。
④それを繰り返すことで、被相続人が出生したことが記載された戸籍に辿り着くことができます。
-特記事項-
なお、このように、現状は、それぞれの戸籍(除籍)謄(抄)本を取り寄せるには、本籍地がある市区町村に請求する必要がありますが、今後は、平成25年に法務省に導入された「戸籍副本データ管理システム」を活用することで、本籍地以外の市区町村に対し一括請求し取り寄せることが可能になるとのことです。そのような内容を含んだ改正戸籍法(25_1_2.pdf へのリンク)が第198回通常国会において令和1年5月24日に可決成立しています。
●各相続人の現在の戸籍謄本
●被相続人の預金通帳と届出印
とされていまかすが、金融機関によっては求める書類に相違があるかもしれませんので、先ずは問い合わせる必要があります。また、事前に、下記制度を利用することをお勧めします。
※関連事項➣「法定相続情報証明制度」

(2)(新設_家事事件手続法第200条第3項)
家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において,被相続人の死亡により、その被相続人に扶養されていた相続人がたちまち⽣活を維持できなくなるといった生活費に窮する場合や葬儀代等の支払が必要に迫られる場合等により、遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるときは,他の共同相続人の利益を害しない限り,申立てにより,遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができることにするもの。

4.遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合(新設_民法第906条の2)(令和元年7月1日施行)
共同相続人全員の同意により,当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができるようになります。なお、共同相続人の1人又は数人が遺産の分割前に遺産に属する財産の処分をした場合には,当該処分をした共同相続人(そのうちの一人又は数人)については,上記の同意を得ることを要しないとされます。

<事例>
兄弟2人が相続人である場合で、兄が遺産1千万円のうち5百万円を遺産分割前にこっそり引き出してしまった場合
現行では、その残りの5百万円のみが遺産の対象となり、法定相続分に従うと、250万円ずつの分割になります。しかし、これでは、兄は計750万円、弟は250万円のみとなり、不公平になります。弟としては、そのような不公平な状態を解消するためには、兄を相手取って民事訴訟を起こすしかなく、ただ、訴訟によっても万全であると言えません。
そこで、このような場合には、
法改正では、相続開始後遺産分割前に、この兄によって処分されてしまった財産も遺産の対象として含めることができるようになりました。その際、この兄に、その旨の同意を得る必要はないということになります。
結果として、遺産は1千万円となり、
兄→5百万円円-500万円=0
弟→500万円
ということになります。
ただ、兄が⽗の生存中に父に無断で引き出していた場合には、その分は遺産に含まれないことになります。
※関連事項➣「特別受益」

5.相続の効力等に関する見直しについて(新設_民法第899条の2)(令和元年7月1日施行)
「相続させる旨の遺言」により承継された財産については,登記なくして第三者に対抗することができるとされていた現行法を見直し,法定相続分を超える部分の承継については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないこととなります。なお、遺産分割*1や遺贈*2については、既に、最高裁判例(*1➣最判昭和46年1月26日/*2➣最判昭和39年3月6日))において、登記たる対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができない旨判示して、登記の先後により、優劣を判断しています。一方、「相続させる旨の遺言」
*1 民法909条では、『「遺産の分割(相続人が複数ある場合では、相続の開始後、一旦、その相続財産はその共有に属するとされ、その後の遺産分割協議により、各々の相続分が定められることになります)」は、相続開始の時に遡ってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することができない』と定め、その限度で分割に伴う遡及効に制約を課していることからも、登記たる対抗要件の具備は必然的かもしれません。一方、「相続放棄」に関しては、絶対的な遡及効があるとされ、登記なくして第三者に対抗することができるとされています。
*2 遺言による贈与は、遺言によって受遺者に財産を与える遺言者による単なる意思表示にほかならず、やはり、絶対的な遡及効はないとされ、登記なくして第三者に対抗することができないとされています。

<裁判例>
法定相続⼈は妻と⻑男の2⼈です。夫の遺⾔には、すべての財産(つまり、法定相続分を超えることになります)を妻に相続させると記載されていました。ところが、妻が遺⾔通りに当該財産のうち⼟地につき相続登記を⾏う前に、⻑男の債権者が、当該⼟地について、⻑男に代位(これを「債権者代位権による登記申請」と言います)して、長男の法定相続分である1/2を対象に相続登記を⾏い、競売開始決定を得て⻑男の法定相続分に対して差押え(当該債権者は既に、債務名義を取得していたということだと思います)を行ったという事例です。
当該事例に対して、最高裁は平成14年6月10日付で、相続させる旨の遺言により承継された財産については,登記なくして第三者に対抗することができると判示しました。。

6.被相続⼈の介護や看病で貢献した親族は⾦銭請求が可能となります(新設_民法第1050条)(令和元年7月1日施行)
これは法定相続人ではない親族(例えば、長男の嫁等)を指し、
現⾏法ではこの場合の当該親族は遺⾔がない限り、介護や看病に対して何らかの金銭的な償いを受けることはできませんでした。
改正法では、そのような場合には、当該親族は相続人に対して、金銭の請求を行うことができるようにするもの。
※関連事項➣「寄与分」というものがあります。これは、「共同相続人の中に、被相続⼈の事業に関する労務の提供⼜は財産上の給付,被相続⼈の療養看護その他の⽅法により被相続⼈の財産の維持⼜は増加について特別の寄与をした者」がいる場合に、その寄与分を当初の相続財産から控除したものを相続財産とみなし、当該寄与をした者は、そのみなし相続財産の中から相続した分当該寄与分の合計がその者の相続財産になるというものです。

7.遺留分侵害額請求権が新たに認められることになります(新設_民法第1046条)(令和元年7月1日施行)
現行法においては、被相続人の兄弟姉妹(第3順位)*以外の相続人、つまり、配偶者(常に相続人)、「直系卑属」である子(子が被相続人の死亡前に既に死亡している場合には孫(これを「代襲相続人」といい、孫も死亡している場合はひ孫・・・といった具合に、代襲相続は無限に続きます))(第1順位)、父母・祖父母といった「直系尊属」(第2順位)に、最低限の取り分を認めており、これを「遺留分」という。これは、遺言によっても、その取り分は侵害されないことになっています。この「遺留分」を求めるには、現行法では、「遺留分減殺請求権」という財産そのものの返還を求める権利を行使することが原則とされていましたが、
改正法では、それに相当する金銭の支払いを求める権利「遺留分侵害額請求権」が認められることになったわけです。
*兄弟姉妹の場合は、代襲相続に関しては、被相続人から見て甥・姪までに限られています。

<遺留分の実際>
①配偶者だけが相続人の場合➣遺留分は1/2となるので、その法定相続分である1の1/2(つまり、1/2)。
②配偶者と子が相続人の場合➣遺留分の総体(全員の遺留分の合計のこと)が1/2となるので、それぞれの法定相続分である1/2の1/2(つまり、1/4)。なお、例えば、子が3人であれば、子1人当りの遺留分は法定相続分である1/2×1/3×1/2=1/12となります。
③子だけが相続人の場合➣遺留分の総体(同)が1/2となるので、例えば、子が2人であれば、子1人当りの遺留分は法定相続分1×1/2×1/2=1/4となります。
③配偶者と母が相続人の場合➣やはり、遺留分の総体(同)が1/2となるので、配偶者はその法定相続分である2/3の1/2(つまり、1/3)、母はその法定相続分である1/3の1/2(つまり、1/6)。
④母だけが相続人の場合➣この場合だけ、遺留分は1/3となるので、その法定相続分である1の1/3(つまり、1/3)。

<事例>
経営者であった被相続人が,事業を手伝っていた長男に会社の土地建物(評価額1億円)を,長女に預金2千万円を相続させる旨の遺言をし死亡した場合で、長女が長男に対し,遺留分減殺請求権を行使した場合
長女の遺留分侵害額➣(1億円+2千万円)×1/2×1/2-2千万円=1千万円 となります
この場合、土地建物の共有割合が長男分9千万円/1億円・長女分1千万円/1億円となってしまい、事業継承がスムーズに行えない弊害が指摘されてきました。そのような弊害を避けるために、長女に、長男に対する金銭債権の請求を認めることにしたもの。

8.法務局で⾃筆証書遺⾔を保管してもらえることになります(新設_「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)(令和2年7月10日施行)
●遺言書の保管に関する事務は,法務局のうち法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所(遺言者の住所地か本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所になります))において,遺言書保管官として指定された法務事務官が取り扱います。
●遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに,その画像情報等の遺言書に係る情報を管理することになります。
●遺言者は,保管されている遺言書について,その閲覧を請求することができます。また、遺言者の生存中は,遺言者以外の者は遺言書の閲覧等を行うことはできません。
●遺言者の相続人等は遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます。
●遺言者の相続人等は,遺言者の死亡後,遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求及び遺言書原本の閲覧請求をすることができます。
●遺言書保管官は,遺言書情報証明書を交付し又は相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは,速やかに,当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人等に通知します。

9.⾃筆証書遺⾔の家庭裁判所による検認が不要になります(新設_「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)(令和2年7月10日施行)
上記のように、遺言書保管所に保管されている遺言書については,家庭裁判所での「検認」の手続が省略できるようになります。

10.財産⽬録をパソコンで作成できるようになります(新設_民法第968条第2項)(平成31年1月13日施行)
従前までは、自筆証書遺言とともに、「財産目録」も自筆での作成が求められてきましたが、自筆証書遺言とは別の用紙で作成される「財産目録」については、パソコンでの作成が可能になりました。なお、その財産目録の各ページに署名押印をしなければならないこととされています。また、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付することができるようになりましたが、この場合にも、その各ページに署名押印をしなければならないこととされています。

<週刊エコノミスト「変わる!相続法」>
特集記事が組まれ。分かり易く解説されています。是非一読下さい。


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