脱退手当金(年金記録問題)について


令和1年7月15日公開

【脱退手当金制度の概要】
脱退手当金制度は、旧厚生年金保険法(厚生年金保険法(昭和60年改正前))(旧厚年法)第69条から第72条(43_6.pdf へのリンク)において存在したもので、厚生年金保険料の掛け捨て防止のために設けられたものてす。昭和61年4月の基礎年金制度の導入に伴い廃止されましたが、既得権保護の観点から、「経過措置」として、旧厚年法の当該制度が依然存続しているものです。なお、その対象となる者は下記の通りとなります。
(支給要件)
昭和16年4月1日以前に生まれた者※1で、原則として下記のすべての要件を満たした場合に支給されます。
・被保険者期間が5年以上※2であること。
・60歳に達した後に被保険者資格を喪失(従って、60歳到達以降の被保険者期間を含めて上記5年以上につきカウントすることになります)し、又は被保険者の資格を喪失した後に被保険者になることなく60歳に達したこと。
※1 この者は、昭和61年4⽉1⽇(昭和60年改正法(新法)施⾏⽇)には既に45歳以上で、この時から、厚⽣年⾦保険の加⼊期間である65歳(平成14年3月までは厚生年金保険の被保険者の年齢上限が65歳未満とされていたからです。なお、平成14年4月からは、それが70歳未満までとされました)までは20年未満(旧法時代は、原則として20年以上の被保険者期間があれば、老齢年金を受給できたためです。現在は、老齢基礎年金の受給資格期間(10年(かつては25年)以上)を満たし、厚生年金保険の被保険者期間が1箇月以上(原則支給の老齢厚生年金の場合)あれば、老齢厚生年金を受給できます)となるため、若い世代に⽐べて、厚⽣年⾦保険の被保険者期間に係る保険料が掛け捨てになってしまうおそれが⾼かったからです。
※2 なお、昭和53年5月31日までは女性のみの特例(同日に当該特例は廃止)があり、厚生年金保険の被保険者期間が同日までで2年以上あり、かつ、同日までに被保険者資格を喪失していれば、年齢に関係なく、脱退手当金が支給されていました。就職後短期間(2年以上)勤めて結婚退職する女性を対象として想定されていたようです。
(失権事由)
・厚生年金保険の被保険者となったとき
・老齢厚生年金、障害厚生年金等の受給権者となったとき
(脱退手当金が支給されたことによる影響について)
脱退手当金の計算の基礎となった期間は、被保険者でなかったものとみなされますが、昭和36年4月1日から昭和61年4月1日前までの間でその計算の基礎となった期間がある場合には、当該期間は合算対象期間(いわゆる「カラ期間」)とされ、年金の受給資格期間に算入(ただし、年金額の計算の基礎とはしません)されることになります。ただし、昭和61年4月1日から65歳に達する日の前日(つまり、65歳誕生日の前々日)までの間に保険料納付済期間又は保険料免除期間を有する場合に限られます。しかし、昭和61年4月1日以後に脱退手当金を受給した場合には、合算対象期間とはされません。

【脱退手当金を受給してしまった人に係る年金記録問題について】
脱退手当金に関しては、社会保険事務所(当時)及び年金事務所での事務処理に当たり、様々な疑義が発生しており、その疑義照会に答える形での疑義照会回答(年金給付)が日本年金機構ホームページにおいて公開されており、当該疑義照会回答だけでも22件(43_1.pdf へのリンク)(令和1年6月28日現在)存在します。なお、ここですべてをご紹介するわけにはいきませんが、その一部につき、その概要をご紹介します。
<整理番号_6>(43_2.pdf へのリンク)
(事例)
厚生年金手帳記号番号A
昭和30年10月6日資格取得
昭和37年10月25日資格喪失
脱退手当金請求支給日➣昭和38年5月30日
厚生年金手帳記号番号B
昭和37年12月1日資格取得
昭和38年4月28日資格喪失
脱退手当金未請求

これは、脱退手当金支給済期間における厚生年金手帳記号番号と脱退手当金未支給期間におけるそれとが相違している場合で、当該脱退手当金の受給権は、その受給権者が被保険者(Bでの被保険者)となったときには消滅するとされていることから、昭和38年5月30日支給の脱退手当金はその支給要件を満たせず、裁定誤りとして取消すべきかとの疑義照会となったもの。

(疑義照会回答)
当該脱退手当金の受給権は消滅することになり、当該脱退手当金の支給決定は裁定誤りとし、取消すべきとなった。また、支給済の当該脱退手当金の返還請求については、会計法30条の規定により時効(5年)が完成していることから、その返還は求めないとされています。

<整理番号_9>(43_3.pdf へのリンク)
(事例)
・生年月日 昭和9年5月24日(女性)
・脱退手当金支給済期間➣
昭和31年8月8日から昭和34年10月1日(38箇月)
昭和54年9月1日から昭和59年12月1日(63箇月) 計101箇月
・脱退手当金支給日 平成7年5月23日

これは、国民年金保険料の納付済期間が40箇月、同全額免除期間が84箇月ある上に、他の記録から合算対象期間が182箇月存在することが判明したもので、当該脱退手当金請求時において、当該合算対象期間の確認がなされないまま、年金の請求はできないものと断念し、当該脱退手当金の請求に至ったもの。さらに、昭和61年4月1日以後に当該脱退手当金が支給されていることから、その計算の基礎となった期間は合算対象期間にはならないとされました。この場合につき、当該脱退手当金を取消し、その計算の基礎となった期間を厚生年金保険の被保険者期間として年金受給に繋げることが可能かの疑義照会となったもの。

(疑義照会回答)
当該脱退手当金の請求当時、既に年金の受給権を取得していたことになるので、当該脱退手当金の支給決定は裁定誤りとし、取消すべきとなった。また、支給済の当該脱退手当金の返還請求については、会計法30条の規定により時効(5年)が完成していることから、その返還は求めないとされています。

<整理番号_11>(43_4.pdf へのリンク)
これは、脱退手当金支給済期間における厚生年金手帳記号番号と脱退手当金未支給期間におけるそれとが相違している場合で、前者の脱退手当金支給日が後者の厚生年金保険の被保険者期間中にある場合です。

(疑義照会回答)
この場合にも、当該脱退手当金の支給は裁定誤りとし、取消すべきとなった。また、支給済の当該脱退手当金の返還請求については、会計法30条の規定により時効(5年)が完成していることから、その返還は求めないとされています。また、新たに判明した後者の厚生年金保険の被保険者期間は原則として、被保険者期間として存続させ、年金額の計算の基礎としますが、被保険者期間としたところで年金受給権獲得に繋がらないおそれがある場合や本人が脱退手当金の追加支給を望む場合には、当該脱退手当金の支給決定の更正を行うこととされています。
※上記太字下線部分については、当該疑義照会回答にも散見される『社会保険庁(当時)運営部年金保険課長名による庁保険発第1119002号「厚生年金保険の脱退手当金に係る取扱いについて」』とする文書を根拠としています。

【弊職が関与している事例(無年金という状況から脱却して年金受給に繋げてほしいという依頼事項)について】
先ずは、下記図表をご覧下さい。

この図表の事例(以下「関与事例」という)はある方の過去の勤務歴を示したもので合計で10社を数え、勤務期間は下記の通りとなります。上記でご紹介した疑義照会(回答)と類似するような形(脱退手当金支給済期間における厚生年金手帳記号番号と脱退手当金未支給期間におけるそれとが相違している場合)になっていますが、ただ、この方の場合は、「脱退手当金支給済期間」であるA社からG社までの勤務先での被保険者期間に続いて、H社からJ社での被保険者期間が存在しているのではなく、H社とI社についてはA社とB社間に存在し、J社についてはB社とC社間に存在するという具合に、疑義照会(回答)でご紹介した内容とは明らかに異なった形になっています。従って、上記でご紹介した<整理番号_6>や<整理番号_11>のように、「脱退手当金の受給権は、当該受給権者が被保険者になったときは消滅する」という失権事由に該当(このことは、引いては年金受給に結び付く可能性が高まることを意味します)するものではなく、そもそも、当該受給権を取得するより前に既にH社からJ社までの被保険者期間は存在していたわけであり、失権事由には当たらないであろうと考えられたものです。
(脱退手当金支給済期間として➣上記図表上欄A社からG社まで)
①A社 S33.5.1〜S34.2.20 9箇月
②B社 S35.12.19〜S37.5.30 17箇月
③C社 S39.11.1〜S40.4.24 5箇月
④D社 S42.11.1〜S44.11.30 24箇月
⑤E社 S47.6.1〜S48.5.18 11箇月
⑥F社 S58.6.1〜S61.3.26 33箇月
①から⑥の被保険者期間計 99箇月

⑦G社 H6.7.16〜H13.3.17 80箇月
①から⑦の被保険者期間計 179箇月

※脱退手当金支給日
平成13年5月28日

(脱退手当金未支給期間として➣上記図表下欄H社からJ社まで)
⑧H社 S34.5.15〜S35.7.19 14箇月
➈I社 S35.9.20〜S35.11.30 2箇月
⑩J社 S38.4.21〜S39.7.21 15箇月
⑧から⑩の被保険者期間計31箇月

<脱退手当金に係る疑義照会(回答)とは別の視点での展開>
(厚生年金保険第4種被保険者(退職後の任意継続被保険者)について)
旧厚生年金保険法(厚生年金保険法(昭和60年改正前))(旧厚年法)第15条第1項(43_7.pdf へのリンク)には、当該第4種被保険者についての規定があり、
「被保険者期間が10年以上である者が、被保険者でなくなった場合において、老齢年金を受けるに必要な被保険者期間を満たしていないときは、その者は、都道府県知事に申し出て、被保険者になることができる」と規定されています。当該旧厚年法の規定も昭和61年4⽉1⽇(昭和60年改正法(新法)施⾏⽇)の時点でその役割を終えたとして一旦廃止されましたが、中高齢者の年金受給権確保に対する配慮等から、厚生年金保険法附則(昭和60年)(昭和61年4月1日施行)(新厚年法附則)第43条(43_8.pdf へのリンク)に引き継がれ、「経過措置」として依然存続しているものです。

(新厚年法附則の施行前後における当該第4種被保険者に係る規定の推移について)
●旧厚年法第15条第1項に定める第4種被保険者の資格取得要件の当否について
①のA社における資格取得日(S33.5.1)の属する月から⑥のF社における資格喪失日(S61.3.26)の属する月の前月までの被保険者期間は99箇月であり、 当該時点では、旧厚年法第15条第1項に定める第4種被保険者の資格取得要件のひとつである被保険者期間が10年以上という要件を満たしていない。しかし、それは、⑧から⑩までの勤務先における被保険者期間である31箇月が、①から⑦までの被保険者期間とは別の記号番号で管理されていたことを原因として、当該31箇月が判明した平成19年10月17日(当該時点で、この方は既に70歳超)に至って漸く判明したことが影響しているためであって、当該月数を加算すれば、合計130箇月になっていたのであって、昭和61年3月当時までに、それが判明していれば、当該資格取得要件のひとつは満たされていたわけであると考えられる。
●新厚年法附則第43条第1項(旧厚年法第15条第1 項がその効力を有するか否か)について
新厚年法附則第43条第1項には、「旧厚年法第15条第1項の規定は、新厚年法附則の施行日である昭和61年4月1日の前日において、同項の規定による厚生年金保険の被保険者であった者であれば、なおその効力を有する」と規定されている。確かに、当該前日においは、本人は同項の規定による厚生年金保険の被保険者ではなかった者であるが、それは、上記を原因として 、第4種被保険者の資格取得要件のひとつである被保険者期間が10年以上という要件を満たせず、そもそも 第4種被保険者の資格取得の申出ができなかったことに端を発し ている。よって 、 当該31箇月が別の記号番号などで管理されさえしていなければ 、それを加算することで 、第4種被保険者の資格取得の申出は逆に可能であったわけであろうと考えられ、当該前日においては、同項の規定による厚生年金保険の被保険者であった者、つまり第4種被保険者として存在し得たと考えられる。従って、新厚年法附則の施行日以後も「経過措置」として存続した第4種被保険者として、新厚年法附則の施行日以後においても有することになった同項の効力を享受できたと考えるところである。
●新厚年法附則第43条条第2項第4号(新厚年法附則の施行日以後における第4種被保険者としての資格取得の可否)について
先ずは、第2項は「次の各号のいずれかに該当する者であって、厚生年金保険の被保険者期間が10 年以上である者が、厚生年金保険の被保険者でなくなった場合において、当該被保険者期間が20年に達していないときは、その者は、厚生労働大臣に申し出て、厚生年金保険の被保険者になることができる。ただし、第1号、第2号又は第4号のいずれかに該当する者にあつては、施行日の属する月から厚生年金保険の被保険者でなくなつた日の属する月の前月までの期間の全部が厚生年金保険の被保険者期間である場合に限る」と規定されている。
そして、その各号のうち第4号は「 第5項の規定によって厚生年金保険の被保険者となった者」 と規定され、
さらに、第5項は施行日の前日において 旧厚年法第15条第1項の申出をするこができた者であって同項の申出をしていなかった者が、施行日において厚生年金保険の被保険者でなかったときは、その者は、厚生労働大臣に申し出て、厚生年金保険の被保険者となることができる」と規定されている。
当該31箇月を加算できてさえいれば、本人は正しく、 施行日の前日において旧厚年法第15条第1項の申出をすることができた者になれたわけであり、同項の申出をせず、施行日時点において厚生年金保険の被保険者でなかったとしても、施行日の属する月に当該申出をすることで 、「 当該月から厚生年金保険の被保険者でなくなった日の属する月の前月までの全部が厚生年金保険の被保険者期間である場合に限る」との但書の要件をも満たすことができ、従って、施行日以後においても、本人は第4種被保険者としての資格を取得し得たものと考えるところである。

(年金記録の不備により任意加入ができなかった脱退手当金受給者への対応について)(43_9.pdf へのリンク)
これは、平成23 年1 月31 日付で厚生労働省年金局から発出された文書(厚生労働省ホームページにおいて公開されています)の題目である。
そして、その内容とするところは、厚生年金保険の被保険者期間の不足により、やむなく脱退手当金を受給したもので、その後、新たな年金記録が一定期間判明したものの、当該脱退手当金の支給が取り消されたら回復される厚生年金記録と合わせたとしても、年金の受給資格期間である300箇月(25年)以上(原則)を満たせなかったものであるが、脱退手当金を受給せず、当該不足分を国民年金の高齢任意加入被保険者として国民年金に加入していれば、年金の受給資格期間を満たすことが可能であったという事案につき、そのような事案を抱える対象者を救済すべく、当該対象者を年金の受給へ繋げるための取扱事項を定めたものです。
●当該文書にある具体例
65歳に達するまでの間で、当初は、①厚生年金保険の被保険者期間で7年+②別の厚生年金保険の被保険者期間で7年、①+②=14年のみが厚生年金記録として存在していたが、後に、国民年金記録として新たに10年が判明し、結果的には合計24年になったものである。ただし、新たに判明したのが71歳の時点であったため、当該時点で判明しても、既に、国民年金の高齢任意加入被保険者として国民年金に任意加入できる年齢上限(70歳未満)を経過してしまっており、あと1年を国民年金の高齢任意加入被保険者として国民年金に任意加入できなかったために、年金の受給資格期間を満たすことができなくなってしまったという事例である。つまり、旧社会保険庁の杜撰な記録管理(事務処理誤り)がもたらした結末であったと言えるものです。

(上記事案を関与事例に適用できるか否かについての日本年金機構(年金事務所)との折衝について)
上記事案の関与事例への適用の可否については、各々の内容が異質のものである以上、その結論は容易く判断できるものであるが、脱退手当金支給済期間と脱退手当金未支給期間とが別々の記号番号で管理されていたこと、新たな厚生年金記録が本人が71歳を超えた時点で漸く判明したこと、国民年金の高齢任意加入被保険者としての国民年金への任意加入と厚生年金保険の第4種被保険者としての厚生年金保険への任意継続加入との間に優劣が存在する理由が見出し得ないこと、を考えると、仮に、関与事例が稀な事例であるとしても、そのような数量的な見地をもって、さらには、上記事案との画一性だけをもって、その適用可否の結論を導き出すのは極めて不合理である旨の主張を展開しているところである。

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