改正高年齢者雇用安定法及び70歳までの就業機会確保に向けてのさらなる法改正の動き等について


令和2年6月22日更新

平成25年4月に、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律(改正高年齢者雇用安定法)(平成24年8月29日成立)が施行されました。

【改正前の高年齢者雇用安定法について】
●60歳未満の定年は原則として禁止されるとともに、さらに、65歳未満の定年を定めている事業主については、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、下記①から③のうち、いずれかの高年齢者雇用確保措置を講じなければならないとされました。
定年の引き上げ
継続雇用制度(雇用する高年齢者が希望すれば、その定年後も引き続いて、当該高年齢者を再雇用する制度で、改正前までは、定年を迎えたときに在籍していた会社又はその子会社(定年を迎えたときに在籍していた会社が親会社である場合)のみが継続雇用制度の対象者を再雇用できる企業の範囲とされていました)の導入
定年そのものの廃止
●ただ、そのうち「継続雇用制度」の導入に当たっては、継続雇用制度により再雇用する者を選別する方法として、労使協定を締結することで、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る「基準(例えば、「勤務態度が良好な者」「勤続〇年以上の者」「健康診断の結果に異常が認められない者」といった者に限定するというもの)」を定めることができ、当該基準に該当しない高年齢者を継続雇用制度の対象外にすることが認められていました。
●また、平成25年4月からの老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢の段階的な引き上げが実施されることを受け、平成25年4月以後、場合によっては、60歳での定年退職から当該支給開始年齢までの間が無収入になってしまうおそれがありました。

そのような弊害を回避する方策として、当該法改正が実施されたわけです。

<老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢の段階的な引き上げの図表>
図表をクリックしていただければ、PDFにリンクします。


【改正高年齢者雇用安定法の概要】(44_1_1.pdf へのリンク)
1.継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
定年後の継続雇用制度の対象となる高年齢者について、事業主が労使協定に定める基準により限定できる仕組みが廃止されました。つまり、労使協定に基準を設けて、当該基準に該当しない高年齢者を対象外にするということができなくなり、希望者全員を再雇用しなければならなくなったわけです。ただし、この改正には、一定の期間(12年間)の「経過措置」が設けられました。つまり、平成25年4月1日以後であっても直ちに希望者全員を65歳まで再雇用する必要はなく、老齢厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げに合わせ、当該支給開始年齢までは希望者全員を再雇用しなければならないものの、それ以降の年齢の者については、従前通り、労使協定(平成25年3月31日までに、継続雇用制度の対象者を限定する基準を労使協定に設けている事業主に限ります)に定める基準に該当しない者は継続雇用制度の対象外にすることができるという例外規定が設けられました。
(経過措置)
平成25年4月1日から平成28年3月31日までの期間➣61歳以上の者((昭和28年4月2日から昭和30年4月1日までの生年月日の者)
平成28年4月1日から平成31年3月31日までの期間➣62歳以上の者((昭和30年4月2日から昭和32年4月1日までの生年月日の者)
平成31年4月1日から令和4年3月31日までの期間➣63歳以上の者((昭和32年4月2日から昭和34年4月1日までの生年月日の者)
令和4年4月1日から令和7年3月31日までの期間➣64歳以上の者((昭和34年4月2日から昭和36年4月1日までの生年月日の者)
(経過措置の意義及び疑問点について)
例えば、平成31年3月31日までは、62歳未満の者については希望者全員を再雇用しなければなりませんが、62歳以上の者については、従前通り、労使協定に定める基準に該当しない者を継続雇用制度の対象外にすることができるわけです。
一方、女性の場合は、上記図表にある通り、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢が男性より5年遅れになっています。従って、「経過措置」の対象年齢についても同様に5年遅れかと言えば、厚労省ホームページにある「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)」の該当するQ&Aを読む限りでは、「経過措置の対象年齢については男女で異なるものではなく同一である」旨の記載があり、5年遅れではないとされています。ただ、例えば、昭和35年7月29日を生年月日とする女性の場合、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢は62歳ですが、上記(経過措置)の生年月日で照合してみると、該当の期間は④になり、64歳以上となっています。ということは、62歳未満まではもちろん、64歳未満までも希望すれば再雇用してもらえることになります。しかし、実際の老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢は62歳ということで、仮に62歳の時点で労使協定に定める基準に該当しない場合であっても、62歳から64歳までの2年間は、本人が希望すれば、再雇用しなければならないということになるのではないかと思われます。この点については、厚労省に再確認の上、その当否につき、当ページにおいて明らかにしたいと思います。
 ただし、「心身の故障のため業務の遂行に堪えない者に限っては対象外にできる」という例外規定もここに設けられました。

なお、この経過措置は令和7年3月31日までですので、65歳までの全員雇用が完全に義務化されるのは令和7年4月1日(令和7年度)以後ということになります。

<改正高年齢者雇用安定法の「経過措置」のイメージ図表>
図表をクリックしていただければ、PDFにリンクします。


2.継続雇用制度の対象者を雇用する企業範囲の拡大
上記の高年齢者雇用確保措置の中の「継続雇用制度の導入」において、「改正前までは、定年を迎えたときに在籍していた会社又はその子会社(定年を迎えたときに在籍していた会社が親会社である場合)のみが継続雇用制度の対象者を再雇用できる企業の範囲とされていました」と記載しましたが、改正後は、その範囲をグループ企業まで拡大できることになっています。
①定年を迎えたときに在籍していた会社
②子会社(定年を迎えたときに在籍していた会社が親会社である場合)
親会社の子会社(同一の親会社を持つ子会社間)➣改正により追加されたもの
関連会社➣改正により追加されたもの

3.義務違反企業に対する公表規定の導入
改正前までは、行政指導の方法としては、指導、助言及び勧告までとなっていましたが、改正後は、高年齢者雇用確保措置義務に係る当該勧告に従わない場合には、事業主に対してより強制力のある「企業名公表」という規定が設けられました。

【70歳までの就業機会確保に向けての動きについて】
令和1年6月21日に開催されました第29回未来投資会議において、「成長戦略実行計画案」(44_1_2.pdf へのリンク)というものが提示されました。その第3章全世代型社会保障への改革1.70歳までの就業機会確保の中で、下記の記載があります。
「高齢者の雇用・就業機会を確保していくには、70歳までの就業機会の確保を図りつつ、65歳までと異なり、それぞれの高齢者の特性に応じた活躍のため、とり得る選択肢を広げる必要がある。このため、65歳から70歳までの就業機会確保については、多様な選択肢を法制度
上整え、当該企業としては、そのうちどのような選択肢を用意するか、労使で話し合う仕組み、また、当該個人にどの選択肢を適用するか、企業が当該個人と相談し、選択ができるような仕組みを検討する」とされています。
そして、法制度上整備される選択肢のイメージとしては下記のものが列挙されています。
①定年の定めの廃止
②70歳までの定年の引き上げ
③65歳以上継続雇用制度の導入(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)
④他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
⑤個人とのフリーランス契約への資金提供
⑥個人の起業支援
⑦個人の社会貢献活動参加への資金提供

なお、令和2年1月8日に開催された第144回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会において厚生労働省より提示された資料「雇用保険法等の一部を改正する法律案要綱」(44_1_4.pdf へのリンク)によれば、その中の第四「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部改正(施行予定は令和3年4月1日)」において「高年齢者就業確保措置」として、下記の内容をもって定められています。
<高年齢者就業確保措置>
1 定年(65歳以上70歳未満のものに限る。以下同じ)の定めをしている事業主等は、次に掲げる措置のいずれかを講ずることにより、現に雇用している高年齢者等の65歳から70歳までの
安定した雇用を確保するよう努めなければならないものとすること。ただし、当該事業主が、「創業支援等措置」を講ずることにより、当該高年齢者の65歳から70歳までの安定した就業の機会を確保する場合にはこの限りでないものとすること。
(1)当該定年の引上げ
(2)65歳以上継続雇用制度(現に雇用している高年齢者等が希望するときは、当該高年齢者をそ
の定年後等に引き続いて雇用する制度をいう。3において同じ)の導入
(3)当該定年の定めの廃止
2 1に規定する「創業支援等措置」は、次に掲げる制度であって労働者の過半数を代表する者等の同意を厚生労働省令で定めるところにより得た上で導入されるものをいうものとすること。
(1)現に雇用している高年齢者等が希望するときは、当該高年齢者が定年後等に引き続いて新たに事業を開始する場合等に、事業主が、当該高年齢者等との間で、当該事業に係る委託契約等(労働契約を除き、当該委託契約に基づき当該事業主が当該高年齢者等に金銭を支払うものに限る)を締結する制度➣すなわち、「⑤個人とのフリーランス契約への資金提供」及び「⑥個人の起業支援」を指すものと考えられます。
(2)現に雇用している高年齢者等が希望するときは、当該高年齢者等が定年後等に引き続いて次に掲げる事業(当該事業を実施する者と当該高年齢者が、当該事業に係る委託契約等(労働契約を除き、当該委託契約に基づき当該事業を実施する者が当該高年齢者に金銭を支払うものに限る)を締結するものに限る)であって不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することを目的とするものに係る業務に従事できる制度➣すなわち、「⑦個人の社会貢献活動参加への資金提供」を指すものと考えられます。
ただし、ロ又はハの事業に係る業務に従事できる制度については、事業主と当該事業を実施する者との間で、当該者が、当該高年齢者が当該業務に従事する機会を提供する契約を締結するものに限る。
イ 事業主が実施する事業
ロ 事業主が団体に委託する事業
ハ 事業主が事業の円滑な実施に必要な資金の提供その他の援助を行う団体が実施する当該事業
3 65歳以上継続雇用制度には、事業主が他の事業主との間で、当該事業主が現に雇用している高年齢者等であって定年後等に雇用されることを希望するものを、定年後等に当該他の事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとすること。➣すなわち、「④他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現」を指すものと考えられます。

もちろん、まだ想定の範囲内であり、今後検討されるべきものと思われますが、今後の法整備に向けてのステップとしては、
●第1段階の法整備➣上記①から⑦までの選択肢を明示するものの、70歳までの就業機会の確保については努力義務に留める。
●第2段階の法整備➣第1段階の進捗状況を鑑み、改正高年齢者雇用安定法において規定した「企業名公表」という強制力のある履行確保策、つまりその前提としての義務化のための法改正を検討する。
という流れが予定されているようである。
(年金制度との関係)
・前提として、70歳までの就業機会の確保を捉えて、現状の65歳からの年金支給開始年齢の引き上げを目論むつもりはないと明言しています。
・しかし、現状、60歳から70歳までの間で年金支給開始年齢の選択ができる制度(老齢基礎年金支給繰上げ・繰下げ及び老齢厚生年金支給繰上げ・繰下げ)については、70歳以降も選択できるようその範囲の拡大化を検討するとされています。また、在職老齢年金制度については、就労意欲を阻害するという批判もあることから、将来的にはその縮小、さらには廃止にまで踏み込むとされています。
これらについては、人事労務トピックス一覧表にある「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案の概要」において、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」の第201回通常国会での可決成立(令和2年5月29日)を受けて、今後施行される予定であり、当該ページにおいてご確認下さい。

【2019年財政検証について】(44_1_3.pdf へのリンク)
上記の(年金制度との関係)と密接に絡むであろう2019年財政検証については、「経済成長と労働参加が進む」とされるケースⅠからⅢでは所得代替率(年金受給開始時点(65歳)における年金額が現役世代の手取り収入額(ボーナス含む)と比較してどのくらいの割合かを示すもの)50%以上を維持するとされています。単純比較で短絡的かもしれませんが、現時点(2019年度)での所得代替率である61.7%からすると大幅な低下が想定されており、やはり、今後も年金だけでは老後生活を維持できない懸念があることが如実に示されたと言えるのではないだろうか?そのためには自己防衛をするしかないと国自体が国民に求めざるを得ないことを認めたということになるのでしょうか?ただ、国も単に危機感を煽って求めるだけでは策がなく、次のようなオプション試算を提示することで、国民の老後生活が少しでも安心安定に繋がるよう施策を打ち出したというところなのかもしれません。なお、あくまでも私見ですが・・・。

(オプション試算A➣被用者保険のさらなる適用拡大)
①被用者保険の適用拡大の対象となる現行の企業規模要件(短時間労働者以外の被保険者数が501人以上、要するに大企業)を廃止した場合➣被保険者125万人増
②被用者保険の適用拡大の対象となる現行の企業規模要件と賃金要件(月8.8万円以上)を廃止した場合➣被保険者325万人増
③一定の収入(月5.8万円以上)があるすべての被用者へ適用拡大を図った場合➣学生や雇用契約期間1年未満の者といった被用者保険の適用拡大の対象にならない者も含めて1,050万人増
被用者保険の適用拡大の対象
①週の所定労働時間が20時間以上であること
②月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)であること(賃金要件)
③勤務期間が1年以上見込まれること
④学生でないこと
⑤短時間労働者以外の被保険者の総数が501人以上の「特定適用事業所」に使用されていること(企業規模要件)

(オプション試算B➣保険料拠出期間の延長と年金受給開始時期の選択)
①基礎年金の拠出期間の延長➣20歳から60歳までの40年から、20歳から65歳までの45年に延長
②在職老齢年金制度の見直し➣65歳以上の在職老齢年金制度の仕組みの縮小・廃止
③厚生年金保険の加入年齢の上限引き上げ➣70歳から75歳へ延長
④就労延長と年金受給開始時期の選択肢の拡大➣年金受給開始可能期間(現行60歳から70歳まで)の年齢上限を75歳まで拡大、つまり、就労の65歳を超えて70歳から75歳までの延長に合わせて年金の支給繰下げの選択幅(さらに、増額率の上限(現行42%増)のさらなる積み上げもあるのか?)の拡大➣「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」の第201回通常国会での可決成立(令和2年5月29日)を受けて、令和4年4月1日から施行予定

これらのオプション試算を実施することで、所得代替率の大幅な増加が期待できるとされていますが、特に、経済成長の伸長によるところも大きく、こればかりは予断を許さない面が多々あり、決して楽観的に捉えることは難しいのではないだろうかというのが率直な感想である。


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