在職老齢年金受給や繰下げ受給に係る見直し案について


令和2年7月14日更新

厚生労働省年金局が第12回社会保障審議会年金部会(令和1年10月18日開催)に対して提示した「在職定時改定の導入」(4_1_1_1.pdf へのリンク)及び「繰下げ制度の柔軟化」(4_1_1_2.pdf へのリンク)と題する資料の中から一部を抜粋した上で引用して、同審議会で今後審議されることになるそれぞれの案について、その概要を解説させていただくことにします。同審議会においてなされる議論の推移については予断は許しませんが、「在職老齢年金制度の見直しの検討」(これもご参照下さい)も合わせて、今後益々、生産年齢人口の減少が見込まれる中で、高齢者による社会参加(就業)への需要は高まることが予想され、それに呼応した高齢者が就労意欲を維持しながらも働き続けることができるよう、その環境整備を図っていくことは喫緊の課題であると考えます。その一環として、今回、厚生労働省年金局から下記のような内容の制度(案)が示されたものです。

<在職定時改定について>令和4年4月1日施行予定
65歳以上の者の場合で、老齢厚生年金の受給権を取得した後も依然働き続けて、つまり、厚生年金保険の被保険者として、その間の厚生年金保険料を負担しても、当該保険料が老齢厚生年金の額に反映されるのは被保険者資格を喪失した時(つまり、65歳から70歳までの間の退職時と70歳到達時)に限られています。このことを「退職時改定」と言いますが、そうではなく、在職中であっても、年金額の改定を定時(毎年1回)に行うこととするのが「在職定時改定」です。この場合では、毎年9月1日(基準日)において被保険者である場合の老齢厚生年金の額は、基準日の属する月の被保険者であった期間をその計算の基礎とする(つまり、基準日の属する月以後の被保険者であった期間はその計算の基礎としない)ことになります。年金の額の改定は基準日の属する月の翌月からとなります。(厚生年金保険法第43条第2項 改正)(4_1_1_3.pdf へのリンク)
なお、現行は、受給権者がその権利を取得した日の属する月以後の被保険者であった期間は、その計算の基礎としません(つまり、受給権者がその権利を取得した日の属する月の被保険者であった期間をその計算の基礎とします)。
(参考)
「退職時改定」の場合は、被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1箇月を経過したときは、その被保険者の資格を喪失した日の属する月の被保険者であつた期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とします
・厚生年金保険の障害厚生年金では、その支給事由となる障害に係る障害認定日の属する月における被保険者期間はその計算の基礎としていません(つまり、その支給事由となる障害に係る障害認定日の属する月以前の被保険者であった期間をその計算の基礎します)。。



<繰上げ減額率と繰下げ増額率について>➣老齢基礎年金及び老齢厚生年金の支給繰上げについては、元々、それらの支給繰下げのように国民年金法及び厚生年金保険法各本則に規定されているものではなく、それらは当分の間の措置として、国民年金法附則(昭和34年)第9条の2及び厚生年金保険法附則(昭和29年)第7条の3にそれぞれ規定されています。なお、繰上げ減額率及び繰下げ増額率そのものについては、政令で定めるものとされています。

第201回通常国会で「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が可決成立したことから、改正後の繰上げ減額率についても、政令で規定されることになります。

結論から言うと、繰上げ減額率につき、現行1月当り0.5%を0.4%にするものです。仮に、60歳から繰上げ受給する場合は、現行0.5%×60箇月=30%の減額が見直し後は0.4%×60箇月=24%の減額になり、令和2年度の老齢基礎年金(満額の場合)の額で見ると、(781,700円×0.76)-(781,700円×0.7)=594,092円-547,190円=46,902円となり、1月当りおよそ3,908円増えることになるわけです。
なお、繰下げ増額率(現行1月当り0.7%)については、据置きとされています。


<受給開始時期の選択肢の拡大について>
(繰下げ受給の上限年齢の引き上げについて)令和4年4月1日施行予定
現行の繰下げ受給の上限年齢は70歳ですが、これを75歳に引き上げるというものです。従って、繰上げ受給も含めて60歳から75歳までの15年間での選択が可能になるわけです。増額率も現行の上限は42%(0.7%×60箇月(5年待機))ですが、これがなんと84%(0.7%×120箇月(10年待機))にまで拡大することになるわけです。(国民年金法第28条第2項 改正)(4_1_1_4.pdf へのリンク)(厚生年金保険法第44条の3第2項 改正)(4_1_1_5.pdf へのリンク)


(繰下げ受給の上限年齢以降での繰下げ申出の場合のみなし年齢について)
・現行➣70歳に達した日(厚生年金保険法では、「その受給権を取得した日から起算して5年経過した日」との表現になっています)後にある場合、例えば、75歳で繰下げ申出を行った場合には、70歳(厚生年金保険法では、「その受給権を取得した日から起算して5年経過した日」との表現になっています)(つまり、5年待機になります)まで遡って繰下げの申出があったものとみなすとされています。
また、70歳に達する日(厚生年金保険法では、「その受給権を取得した日から起算して5年経過した日」との表現になっています)前に他の年金たる給付の受給権者となった場合には、他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日に繰下げの申出があったものとみなすとされています。
見直し後75歳に達した日(厚生年金保険法では、「その受給権を取得した日から起算して10年経過した日」との表現になっています)後にある場合、例えば、80歳で繰下げ申出を行った場合には、75歳(厚生年金保険法では、「その受給権を取得した日から起算して10年経過した日」との表現になっています)(つまり、10年待機になるわけです)まで遡って繰下げの申出があったものとみなされることになるわけです。
また、75歳に達する日(厚生年金保険法では、「その受給権を取得した日から起算して10年経過した日」との表現になっています)前に他の年金たる給付の受給権者となった場合には、他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日に繰下げの申出があったものとみなすとされています。(国民年金法第28条第2項 改正)(4_1_1_4.pdf へのリンク)(厚生年金保険法第44条の3第2項 改正)(4_1_1_5.pdf へのリンク)
 他の年金たる給付とは
・老齢基礎年金の場合➣他の年金たる保険給付(厚生年金保険法の老齢を支給事由とするものを除きます)又は年金たる給付(国民年金法の付加年金は除きます)のことを言います。老齢を支給事由とするものが除外されるのは、老齢基礎年金は、例えば老齢厚生年金と併給できるからです。また、付加年金が除外されるのは、老齢基礎年金と併給できるからです。
・老齢厚生年金の場合➣他の年金たる保険給付又は年金たる給付(国民年金法の老齢基礎年金及び付加年金並びに障害基礎年金は除きます)のことを言います。老齢基礎年金及び付加年金並びに障害基礎年金が除外されるのは、これらは老齢厚生年金と併給できるからです。


(70歳以降に繰下げ申出をせずに本来の裁定請求をした場合について)令和5年4月1日施行予定
・現行➣70歳に達した日(厚生年金保険法では、「その受給権を取得した日から起算して5年経過した日」との表現になります)後に、例えば、72歳で本来の裁定請求をした場合は、年金受給に係る時効にかからない過去5年間分(つまり、67歳から72歳までの5年間分。ただし、65歳から67歳までの2年間分は時効消滅することになります)が一括支給されることになり、72歳からは本来の年金が支給されることになります。
見直し後➣70歳に達した日(厚生年金保険法では、「その受給権を取得した日から起算して5年経過した日」との表現になっています)後に、例えば、72歳で本来の裁定請求をしても、当該請求の5年前(つまり、67歳)(厚生年金保険法では、「当該請求をした日の5年前の日」との表現になっています)に繰下げの申出があったものとして、先ずは、67歳から72歳までの5年間分については、65歳から67歳までの2年間繰下げ申出を待機していたとして、その部分(つまり、0.7%×24箇月=16.8%)を上乗せした年金が一括支給されることになるわけです。そして、72歳からも、同じく16.8%を上乗せした年金が支給されることになるわけです。(国民年金法第28条第5項 新設)(4_1_1_6.pdf へのリンク)(厚生年金保険法第44条の3第5項 新設)(4_1_1_7.pdf へのリンク)


なお、国民年金法第28条第5項(新設)但書第1号及び第2号(4_1_1_6.pdf へのリンク)、厚生年金保険法第44条の3第5項(新設)但書第1号及び第2号(4_1_1_7.pdf へのリンク)、それぞれの意味するところについて、厚生労働省年金局からの回答(令和2年7月13日付)(4_1_1_8.pdf へのリンク)も踏まえ、解説したいと思います。

国民年金法第28条第5項(新設)但書第1号及び第2号厚生年金保険法第44条の3第5項(新設)但書第1号及び第2号
第1号 80歳に達した日(厚生年金保険では、「当該老齢厚生年金の受給権を取得した日から起算して15年を経過した日」との表現になっています。つまり、一般的には、65歳から15年経過した80歳)以後にあるとき。
これは、例えば、82歳に達した日に老齢基礎年金の請求を行い、かつ支給繰下げの申出をしない場合には、75歳に達した日に支給繰下げの申出をしたものとみなされないのはもちろんのこと、その5年前の日である77歳に達した日にも支給繰下げの申出をしたものとみなされないことを意味し、従って、本来の請求により、77歳に達した時点に遡って、82歳に達した時点までの5年間の分が一括支給され、82歳からは通常の支給になるという解釈とのことです。
第2号 当該請求をした日の5年前の日以前に他の年金たる給付の受給権者であったとき。
これは、例えば、77歳に達した日に老齢基礎年金の請求を行い、かつ支給繰下げの申出をしない場合で、たまたま71歳の時点で他の年金たる給付の受給権者であった場合には、当該時点ではもちろんのこと、72歳に達した日にも支給繰下げの申出をしたものとみなされないことを意味し、従って、本来の請求により、72歳に達した時点に遡って、77歳に達した時点までの5年間の分が一括支給され、77歳からは通常の支給になるという解釈とのことです。
 仮に、支給繰下げの申出をした場合には、82歳に達した日に老齢基礎年金の請求をしたという第1号の事例で言えば、75歳に達した日に支給繰下げの申出をしたものとはされず、単に、5年遡った77歳に達した日に支給繰下げの申出をしたものとみなされ、繰下げ増額(つまり、84%増額)された年金が10年間分ではなく、5年間分一括で支給されることになるとされます。また、77歳に達した日に老齢基礎年金の請求をしたという第2号の事例で言えば、71歳に達した日に支給繰下げの申出をしたものとはされず、単に、5年遡った72歳に達した日に支給繰下げの申出をしたものとみなされ、繰下げ増額(つまり、58.8%増額)された年金が6年間分ではなく、5年間分一括で支給されることになるとされます。
下記(見直し後における65歳から75歳までの選択肢と75歳以降の選択肢について)において示した図表にあるように、75歳以降80歳までの間では、繰下げ支給の申出を選択した場合であれば、75歳で繰下げ支給の申出があったものとして年金額を算定し、また、繰下げ支給の申出を選択しなかった場合、つまり、本来の請求をした場合でも、その5年前に繰下げ支給の申出(65歳から当該5年前までの間は繰下げの待機)があったものとして年金額を算定する一方で、80歳以降(厚生年金保険では、当該受給権を取得した日から起算して15年を経過した日以後)になると、そのような扱いにはしないということを意味していると思われます。

(現行の制度における65歳から70歳までの選択肢と70歳以降の選択肢について)

なお、70歳以降の選択肢のうち②については、72歳での本来の裁定請求では、5年より前の分(つまり、65歳から67歳までの2年間分)については、時効消滅してしまいます。

(見直し後における65歳から75歳までの選択肢と75歳以降の選択肢について)

・65歳から75歳までの選択肢のうち②については、72歳での本来の裁定請求であっても、その5年前の67歳の時点で繰下げ申出があったものとみなし、65歳から67歳までの2年間は繰下げ待機期間として捉えることで、その部分(つまり、0.7%×24箇月=16.8%)が上乗せされることになるわけです。
・75歳以降の選択肢のうち②については、77歳での本来の裁定請求であっても、その5年前の72歳の時点で繰下げ申出があったものとみなし、65歳から72歳までの7年間は繰下げ待機期間として捉えることで、その部分(つまり、0.7%×84箇月=58.8%)が上乗せされることになるわけです。
・いずれの場合も、本来の裁定請求であっても、その5年前での繰下げ申出扱いにより、65歳から繰下げ申出があったとみなされる年齢までの期間を繰下げ待機期間としているわけです。


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