年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案の概要


令和3年5月1日更新

 年金制度がまた大きく変わります。施行はまだ先ですが、会期期限が令和2年6月17日とされている第201回通常国会において可決成立(令和2年5月29日)となった「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」の概要について、解説してみたいと思います。


※ 厚生労働省ホームページにおいて公表されているリーフレット

 このリーフレットに記載されている中から、その主なものについて記載します。なお、そのほとんどは別ページにおいて解説済ですので、それら詳細については当該ページをリンクしておきますので、そこでご確認いただければと思います。

1. 被用者保険の適用拡大
 短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件について、段階的に引き下げる。
● 施行予定日➣ 常時使用する労働者の総数が101人以上の事業所の場合が令和4年10月1日、同じく51人以上の場合が令和6年10月1日
● これについては、衆議院厚生労働委員会(令和2年5月8日開催)の審議を経て、同案に対する下記の通りの付帯決議が付されています。
* 短時間労働者への更なる適用拡大に向け検討を促進すること
* 適用拡大で保険料負担が増加する中小企業に対し支援措置の充実を検討すること

 5人以上の個人事業所に係る適用業種に、弁護士・税理士・社会保険労務士等の資格を有する者が行う法律 又は会計に係る業務を行う事業を追加する。
● 健康保険厚生年金保険の適用については、法定の適用業種(16業種)であっても、従業員数が5人未満の個人事業の場合には、任意適用となります。また、非適用業種(農林水産業や我々のような自由業とされる士業などが含まれます)については、従業員が5人以上であっても非適用業種とされていますが、士業に限っては、適用業種になるというものです。
● 施行予定日➣ 令和4年10月1日

③ 省略

2. 在職中の年金受給の在り方の見直し
 高齢期の就労継続を早期に年金額に反映するため 、在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額を毎年定時に改定することとする。
● 65歳以上であっても、なお現役で仕事を続ける方々が多くなっています。そのような方々にとっては朗報です。本来、年金額の改定は「退職時改定」と言って、65歳以上70歳までの間で退職した時点、70歳になった時点(つまり、厚生年金保険被保険者資格喪失時)と限定的で、それまでは給与から控除される厚生年金保険料が年金額に反映されない仕組みになっています。しかし、施行後は毎年改定(毎年9月1日を基準日とし、基準日の属する月前の被保険者であった期間を基礎として、基準日の属する月の翌月から改定)され、年金額に反映されることになるというものです。
● 施行予定日➣ 令和4年4月1日

 60歳から64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした(60歳台前半の)在職老齢年金制度について、支給停止とならない範囲(支給停止調整開始額➣法改正後は、支給停止調整額となります)を拡大する。
● 現行は賃金(総報酬月額相当額)と年金額(基本月額)との合計額が280,000円超となると、年金額の調整が行われていますが、それが令和2年度の額で言うと470,000円になるわけですから、年金を受給しながら働き続けてもいいという方々が増えるのではないでしょうか?
● 施行予定日➣ 令和4年4月1日

3. 受給開始時期の選択肢の拡大
  現在60歳から70歳の間となっている年金の受給開始時期の選択肢を、60歳から75歳の間に拡大する。
● 繰下げの申出につき、70歳の時点では増額率が42%(0.7%×60か月)であったものが、75歳の時点では84%(0.7%×120か月)と倍増するわけであり、それだけを見ればメリットは小さくないと言える。厚生労働省年金局からは、その他様々なケースを挙げてメリットが強調されています。
● 施行予定日➣ 令和4年4月1日
● 「老齢基礎年金及び老齢厚生年金の繰下げについて」を下方図表にしてみました。ご参考になさって下さい。なお、年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行後の内容に合わせるために、その改正部分につき、(    )内に反映しています。

● なお、これについては、衆議院厚生労働委員会(令和2年5月8日開催)の審議を経て、同案に対する下記の通りの付帯決議が付されています。
(付帯決議の内容)
 年金の繰り下げ受給では加給年金・振替加算が支給されない*1場合、社会保険料、所得税・住民税が増加する場合があることも国民に周知すること。

*1 60歳台前半の老齢厚生年金で定額部分が支給される場合や65歳からの本来支給の老齢厚生年金などの場合には、65歳未満の配偶者や子(①18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子②20歳未満で障害等級1級又は2級に該当する障害の状態にある子)がある場合には、一定の要件の下、加給年金額が支給されます。また、その加給年金額の対象となっていた配偶者が65歳に達して、当該配偶者自身に老齢基礎年が支給される場合には、老齢基礎年金には振替加算が加算されます。ただ、いずれについても繰下げの申出をした場合には、その間、加給年金額、振替加算は支給されません。ただ、繰下げの申出は老齢厚生年金・老齢基礎年金とも同時にする必要はありません(なお、繰上げ請求につては同時にする必要があります)ので、従って、例えば、夫の老齢厚生年金については繰下げの申出をせずに65歳からの受給を選択し、同時に加給年金額を受給し、一方、夫の老齢基礎年金については、妻が65歳に達して老齢基礎年金を受給するまでの間、繰下げるという選択も可能です。ご検討下さい。

※ なお、その他詳細については、人事労務トピックス一覧表にある「在職老齢年金受給や繰下げ受給に係る見直し案について」を是非ご確認下さい。「本来受給選択時の特例的な繰下げみなし増額」(70歳超で遡及して65歳からの本来受給を選択した場合に、請求の5年前に繰下げの申出をしたものとして年金を支給する制度)(令和5年4月1施行予定)など記載しております。

4. 確定拠出年金の加入可能要件の見直し等
  人事労務トピックス一覧表にある「個人型確定拠出年金(DC)(iDeCo)について」において記載しています。なお、「退職⾦に係る勤続年数と確定拠出年⾦(DC)の⼀時⾦に係る加入期間に、重複期間がある場合の退職所得の計算について」も記載しています。ご参考になさって下さい。

5. その他
 国民年金手帳から基礎年金番号通知書への切替え
● 施行予定日➣ 令和4年4月1日

 未婚のひとり親等を寡婦と同様に国民年金保険料の申請全額免除基準等に追加
● 令和3年度からは、地方税に定める障害者(この中には、認知症などの「所得税や市県民税の障害者控除のための障害者(特別障害者)に準ずる認定」を受けた者も含まれます)又は寡婦で、免除すべき月の属する年の前年の所得(1月から6月までの月分については前々年の所得)が1,350,000円(従来までは1,250,000円)以下の場合には、国民年金保険料は全額免除の対象になります。その中に、未婚のひとり親や寡夫も加えられることになります。ただし、全額免除等の対象になる否かの審査基準は令和3年7月分以後から適用されます。
● 施行日➣ 令和3年4月1日

 短期滞在の外国人に対する脱退一時金の支給上限年数を3年から5年に引上げ
● 国民年金法の脱退一時金➣ その額の算定方法が、基準月(請求の日の属する月の前月までの保険料納付済期間等のうち請求の日の前日までに当該期間の各月の保険料として納付された保険料に係る月のうち直近の月のこと、端的に言えば、請求の日の前日までで、保険料を最後に支払った月のこと)の属する年度における保険料の額(つまり、当該年度において定められた国民年金保険料の額のこと、それが令和3年度であれば、月額16,540円になります)に1/2を乗じて得た額に、保険料納付済期間等の月数に応じた数を乗じて得た額に変わります。そして、従来は、当該期間の月数が36か月以上の場合には、どれだけ納付していても、令和2年度であれば、297,720円(=16,540円×1/2×36)が上限額になっていましたが、改正後は、それが60か月以上となり、令和3年度であれば、498,300円(=16,610円×1/2×60)が上限になります。
● 厚生年金保険法の脱退一時金➣ その額の算定方法が、最終月(最後に被保険者の資格を喪失した日の属する月の前月のこと)の属する月の前年10月(最終月が1月から8月までの場合は前々年10月)の保険料率に1/2を乗じて得た率に被保険者であった期間に応じた数を乗じて得た率に、平均標準報酬(ただし、平成15年3月以前については、平均標準報酬月額1.3を乗じて得た額になります)を乗じて得た額に変わります。そして、従来は、被保険者であった期間が36か月以上の場合には、どれだけの月数があっても、36か月が上限となっていましたが、改正後は、それが60か月以上となり、60か月が上限になります。
● 施行日➣ 令和3年4月1日

 年金生活者支援給付金制度における所得・世帯情報の照会の対象者の見直し
● 施行日➣ 公布日

 児童扶養手当と障害年金の併給調整の見直し
● 児童扶養手当(児童手当とは違う)とは、⽗⺟の離婚等により,⽗⼜は⺟と⽣計を同じくしていない児童を育てている者(一般的には、母の場合が多いと思われます)に対し,児童の福祉の増進を図ることを⽬的として⽀給される⼿当のことを言います。また、その者だけでなく、両親のいずれかに障害があり、障害基礎年金を受給している者の配偶者に対しても支給されています。
● なお、平成26年12月からは、障害基礎年金を受給している者に「子の加算*2」がある場合には、「子の加算」が優先して支給され、「子の加算」額*3が児童扶養手当の額を下回る場合には、その差額分の児童扶養手当が支給されるということになりました。
*2 障害基礎年金の受給権者に生計を維持されている子(①18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子②20歳未満で障害等級1級又は2級に該当する障害の状態にある子)がある場合に加算されるもの。第1子と第2子については、1人当り224,900円(令和2年度の額)(なお、令和3年度は224,700円です)が、第3子以降については、1人当り75,000円(同)(なお、令和3年度は74,900円です)が支給されます。
*3 ただし、当該配偶者自身が他の年金を受給している場合には、その年金額と「子の加算」額との合計額が児童扶養手当の額を下回る場合には、その差額分の児童扶養手当が支給されるということになっています。
● しかし、上記のように、両親のいずれかに障害があり、障害基礎年金を受給している者の配偶者に対しては児童扶養手当が一部支給されているのに、ひとり親の場合では、公的年金(障害基礎年金も含む)と児童扶養手当のうち高い方しか支給されないという弊害が存在していました。障害基礎年金以外の公的年金との比較であれば、児童扶養手当がそれを上回った場合には、その差額支給が認められていましたが、障害基礎年金の場合は2級であっても781,700円(同)(月当り65,141円)(なお、令和3年度は780,900円)(月当り65,075円)となり、児童扶養手当がそれを上回ることは考え難く、事実上、児童扶養手当の支給の対象外とされてきたわけてす。
● そのような措置は不平等との指摘もあり、また、障害基礎年金を受給するひとり親の女性が京都地裁に訴訟*4提起したことも契機となり、厚生労働省は、ひとり親が受給する「子の加算」額が児童扶養手当を下回っている場合にはその差額を支給するという見直しに着手し、社会保障審議会年金部会の専門委員会での審議を経て、今般、当該見直し案の法制化に至り、第201回通常国会において可決成立する運びとなったものです。
*4 なお、京都地裁は令和3年4月16日、そのひとり親の女性の訴えを退ける判決を下しました。判決理由は、障害基礎年金と児童扶養手当はいずれも受給者への所得補償を目的としたものであり、行政がそのような二重給付を回避するための制度設計をすること自体は「行政の裁量に属する」事柄である、また、障害基礎年金を受給している者の配偶者に対する児童扶養手当の一部支給については、受給している世帯の人数など個々の事情は様々であり単純比較できず、差別や不均衡には当たらいとのことでした。
● 例えば、ひとり親が障害等級2級で障害基礎年金を受給している場合で、子が1人の場合であれば、従来は、障害基礎年金の月当り65,141円(≒781,700円/12)+子の加算の月当り18,741円(≒224,900円/12)=83,882円だったものが、改正後は、さらに、児童扶養手当の1人目の支給額43,160円(令和2年度の満額)(なお、令和3年度も同額)-18,741円=24,419円が新たに追加で支給されることになります。
● 施行日➣ 令和3年3月1日

 低所得の中高年も増加傾向にある状況に鑑み、国民年金保険料の納付猶予の対象年齢の引き上げがなされ、平成28年7月以後、30歳未満の者から50歳未満の者へ拡大化されています。これを「納付猶予制度」と言います。
 当該制度は時限措置とされ、従来は令和7年6月までだったものを令和12年6月まで延長されることになります。
● 施行日➣ 公布日

 寡婦年金に係る「死亡した夫の要件」につき、一部緩和されます。詳細は人事労務トピックス一覧表にある「年金受給資格期間短縮に伴う変更点等について」において記載しています。
● 施行日➣ 令和3年4月1日

 厚生年金保険の適用が除外になる範囲のうち、一部その見直しがなされます。
(適用除外)
 適用除外者  例外(被保険者となる場合)
 日々雇い入れられる者  1か月を超えて引き続き使用される場合は、その時から
 2か月以内の期間を定めて使用される者  所定の期間を超えて使用される場合は、その時から➣ 最初の期間も含め、当初から
 所在地が一定しない事業所に使用される者(サーカスの演者等)  いかなる場合も被保険者とならない
 季節的業務(4か月以内)に使用される者(製茶等の事業や清酒の製造の事業など)  継続して4か月を超える予定で使用される場合は、当初から
 臨時的事業の事業所(6か月以内)に使用される者(博覧会等の事業)  継続して6か月を超える予定で使用される場合は、当初から
● 施行予定日➣ 令和4年10月1日


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